しゃがもうとした瞬間、股関節の奥にぐっと詰まるような痛みや引っかかり感を覚えたことはありませんか?病院でレントゲンを撮っても「異常なし」と言われることも多いこの症状は、骨・軟骨・関節唇・筋膜が複雑に絡み合って起きている可能性があります。柔道整復師としての施術経験と、オステオパシーの専門校で学んでいる視点から、その構造的なメカニズムをできるだけ丁寧に紐解いていきます。「なぜしゃがむと股関節が痛いのか」——その答えは、股関節だけを見ていても見えてこないことがあります。
「しゃがむと股関節が痛い」——この詰まり感、なぜ起きる?
股関節の詰まり感とは、しゃがむ・脚を曲げる・内股になるといった動作のときに、股関節の前側や鼠径部(そけいぶ)の奥に感じる「ぎゅっと挟まるような」「ひっかかるような」違和感や痛みのことです。英語では「groin pinching(グロインピンチング)」とも呼ばれます。
この感覚が起きるとき、股関節の中では大まかに以下のことが起きている可能性があります。
- 大腿骨頭(だいたいこっとう)と寛骨臼(かんこつきゅう)の骨同士が、ある方向に動いたときに接触してしまう
- 関節の縁を取り巻く関節唇(かんせつしん)という軟部組織が、繰り返しのストレスで損傷している
- 関節の動きを補助する筋肉——とくに腸腰筋(ちょうようきん)や深層外旋六筋(しんそうがいせんろっきん)——が過緊張を起こし、骨頭の動きを阻害している
これらは単独で起きることもありますが、多くの場合は複合的に絡み合っています。当院の臨床経験では、「しゃがむと股関節が痛い」と訴えて来院される患者さんの多くは、股関節そのものの問題だけでなく、骨盤の傾きや腰椎のカーブの変化、さらには普段の座り方・立ち方の癖が長期間蓄積している傾向を感じることがあります(個人差があります)。
しゃがめない・痛みが出る「角度」に注目する
股関節の詰まり感は、屈曲(曲げる)・内旋(内側にひねる)・内転(内側に寄せる)という3つの動きが同時に起きるときにとくに強くなる傾向があります。しゃがむ動作はまさにこの3つが複合する動きです。
90度前後の股関節屈曲で詰まりが出るのか、それとも120度を超えてから出るのか——その「どこで詰まるか」は、後述するインピンジメントのタイプや関節唇の状態を推測するうえで重要な手がかりになります。強い痛みが続く場合や日常生活に支障が出る場合は、自己判断せず整形外科など医療機関にご相談ください。
インピンジメントと関節唇損傷:股関節の内側で何が起きているのか
「インピンジメント」とは、骨と骨(または骨と軟部組織)が動作中に衝突・接触することで痛みや機能障害が起きる状態を指します。股関節で起きるものは股関節インピンジメント(FAI:Femoroacetabular Impingement)と呼ばれ、整形外科領域でも近年注目されている概念です。
FAIの2つのタイプ
FAIには大きく2つのタイプがあります。
- カムタイプ(Cam型):大腿骨頭と骨頭頸部の境界に余分な骨隆起(骨の出っ張り)ができ、屈曲時に寛骨臼の縁にぶつかる。スポーツ選手や成長期に股関節を酷使した人に多いとされています。
- ピンサータイプ(Pincer型):寛骨臼の縁が過剰に発達(または骨盤の傾きにより見かけ上深くなる)し、大腿骨頭を過剰に覆ってしまう。女性に多いとされ、骨盤アライメントの問題と関連している場合があります。
実際の臨床では、この2つが混在している「混合型」が少なくないと報告されています。
関節唇損傷はなぜ起きるのか
関節唇とは、寛骨臼(骨盤側の受け皿)の縁をぐるりと取り囲む、線維軟骨でできたリング状の組織です。股関節に「吸盤のような安定性」を与えるとともに、関節内圧を一定に保つ役割を担っています。
FAIがあると、骨同士が衝突する際の衝撃が繰り返し関節唇に加わります。その結果、関節唇に亀裂・剥離・変性が生じ、関節唇損傷へと進展する可能性があります。関節唇には神経が豊富に分布しているため、損傷があると「奥から突き上げるような痛み」「引っかかり感」「可動域の急激な制限」などの症状として現れることがあります。
研究では、股関節の構造的な問題が骨盤アライメントに影響を与え、腰部や下肢の機能にも波及する可能性が示されています。つまり、股関節の詰まり感を「股関節だけの問題」として切り取ることには、限界がある場合があると考えられます。
整体師・オステオパシーから見た股関節の詰まり感——骨盤アライメントと筋膜の関係
ここからは、整形外科的な「骨の話」だけでなく、整体師・オステオパシー学習者としての視点を加えてお伝えします。
股関節インピンジメント(FAI)や関節唇損傷は、骨や軟骨の形態的な問題として語られることが多いです。しかし施術の現場で感じるのは、骨盤アライメント(骨盤の向きや傾き)と股関節の詰まり感が密接に関係している可能性があるということです。
骨盤の傾きが「股関節の角度」を変える
骨盤が前傾(前に倒れる)すると、寛骨臼の開口部が前下方を向きます。この状態でしゃがむと、大腿骨頭が寛骨臼の前縁にぶつかりやすくなり、インピンジメントが起きやすい環境になる可能性があります。逆に骨盤が後傾(後ろに倒れる)すると、寛骨臼の開口部が前上方を向き、別の方向での接触リスクが生じます。
つまり、同じ骨の形でも骨盤アライメント次第で詰まりの出やすさが変わることがあると考えられます。骨盤のゆがみが腰痛だけでなく股関節周囲の機能にも波及する可能性については、複数の研究でも言及されています。
腸腰筋と深層外旋六筋の役割
股関節の安定性を内側から担う筋肉として重要なのが、腸腰筋と深層外旋六筋です。
腸腰筋(腸骨筋+大腰筋)は、脊椎・骨盤と大腿骨をつなぐ大きなインナーマッスルで、股関節を屈曲させる主力筋です。長時間の座位や骨盤前傾姿勢が続くと過緊張しやすく、大腿骨頭を前方に引っ張る方向に力が働く場合があります。これが関節内の圧力分布を変え、詰まり感を助長する一因になっている可能性があります。
深層外旋六筋(梨状筋・閉鎖筋群・大腿方形筋など)は、大腿骨頭を寛骨臼に向かって引き込む「求心力」を担います。この筋群の柔軟性や協調性が失われると、大腿骨頭が正しい位置に収まりにくくなり、インピンジメントが起きやすい状況になると考えられます。
さらにオステオパシーの視点から見ると、これらの筋肉は単独で機能しているのではなく、筋膜連鎖(全身の筋膜ネットワークを通じた張力の伝達)を介して、骨盤底筋・腰方形筋・横隔膜とも連動しています。当院の臨床経験では、股関節の詰まり感を訴える患者さんの中に、呼吸が浅く横隔膜の動きが制限されているように感じる方が少なくない印象があります(個人差があります。医学的事実として断言するものではありません)。
痛む場所と原因の場所がずれるという身体の見方は、noteで詳しく書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
「骨だけ」では解決しない——股関節の詰まりを全体構造から読み解く視点
ここまでの話をまとめると、股関節の詰まり感・引っかかり感は、骨の形態(FAI)・関節唇の状態・骨盤アライメント・筋膜連鎖——これらが複合的に絡み合って起きている可能性があります。整体師の視点から言えば、「股関節の痛みだから股関節だけを診る」というアプローチには限界があると感じることが多いです。
「一次制限」はどこにあるのか
オステオパシーの概念に「病変連鎖(lesion chain)」という考え方があります。一つの部位に制限が生じると、身体はそれを代償しようとして隣接する構造にも影響が波及する——という見方です。
たとえば、骨盤内の筋膜張力(子宮広間膜・骨盤底筋膜などを含む)が左右差を持つと、腸骨の回旋偏位が生じ、それが股関節包の張力バランスを変える可能性があります。当院の臨床経験では、婦人科系のトラブルや産後の骨盤変化を抱える患者さんが、股関節の詰まり感や引っかかり感を併発しているように感じるケースを経験することがあります(個人差があります。医学的事実として断言するものではありません)。
研究でも、産後や骨盤のゆがみが骨盤底筋の機能低下を介してさまざまな不調につながる可能性が示されており、股関節と骨盤内の連動性は無視できない視点と考えられます。
「痛みの場所」と「原因の場所」は一致しないことがある
これはバラル内臓マニピュレーションの根幹にある考え方でもあります。内臓の膜系・筋膜ネットワークを通じて、離れた場所の制限が股関節の動きに影響している場合があります。股関節の前面に走る腸腰筋は、腰椎・横隔膜・骨盤内臓器とも近接しており、内臓由来の張力がこの筋肉を介して股関節に伝わっている可能性は、臨床的に注目に値すると感じています。
もちろん、レントゲンやMRIで骨形態・関節唇の状態を確認することは、適切なアプローチを考えるうえで非常に重要です。整体・オステオパシーのアプローチはその検査結果を踏まえた上で、身体の全体的なバランスや筋膜連鎖の視点を加えるものだと考えています。
茨城県龍ケ崎市の当院でも、「病院ではレントゲン異常なし、でも詰まる感じが続く」という患者さんからご相談をいただくことがあります。そのような場合、股関節単体だけでなく骨盤アライメント・腸腰筋の緊張・骨盤内の筋膜バランスという視点からアプローチすることで、症状の変化につながる場合があります(個人差があります)。
まとめ
股関節の詰まり感・引っかかり感は、FAI(股関節インピンジメント)や関節唇損傷という構造的な問題が背景にある場合がありますが、それだけで説明がつかないことも少なくありません。骨盤アライメント・腸腰筋と深層外旋六筋の機能・筋膜連鎖を含めた全体の視点から見ることで、「なぜ痛むのか」の理解が深まる場合があります。症状が続く場合や強い痛みがある場合は、まず整形外科など医療機関を受診し、必要な検査を受けた上でご相談ください。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Sagittal spinopelvic parameters in lower extremity amputees with and without low back pain(Prosthet Orthot Int 2026) PubMed
よくある質問
Q. しゃがむと股関節が痛いのはなぜですか?
A. しゃがむ動作では股関節が深く曲がるため、骨頭と臼蓋の縁が接触しやすくなります。インピンジメントや関節唇の損傷があると、この瞬間に痛みや詰まり感が出やすくなります。
Q. 股関節の引っかかり感は放置しても大丈夫ですか?
A. 引っかかり感が続く場合、関節唇の損傷や軟骨への負担が蓄積している可能性があります。放置すると変形性股関節症へ進行するリスクもあるため、早めに専門家に相談することをおすすめします。
Q. 股関節インピンジメントは手術しないと治りませんか?
A. 必ずしも手術が必要なわけではありません。骨盤のアライメント改善や周囲筋・筋膜へのアプローチで症状が軽減するケースも多く、まず保存的なアプローチを検討することが一般的です。
鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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