「レントゲンには何も映っていないのに、腰と骨盤のあたりがぐらぐらして歩くのも辛い」——産後0〜1年のママからこうした訴えをよく耳にします。病院で「異常なし」と言われてしまうと、痛みの原因がわからず不安になりますよね。しかし、これは決して気のせいではありません。産後の身体では、ホルモンの影響による靭帯弛緩と骨盤帯の不安定化が複合的に絡み合っている可能性があります。なぜこれほど身体が不安定になるのか、解剖・生理・筋膜の視点からひとつひとつ丁寧に紐解いていきます。
「異常なし」と言われるのに痛い——産後腰痛が見落とされやすい本当の理由
産後の腰痛や骨盤まわりの痛みは、一般的な腰痛とは性質が異なる場合があります。通常の腰痛であれば、レントゲンやMRIで椎間板の変性や骨の変形といった「構造的な異常」が見つかることがあります。ところが産後に多い骨盤帯の痛みは、靭帯や筋膜、筋肉といった軟部組織の問題が中心であるため、画像診断では映りにくいという特徴があります。
「骨盤帯疼痛(PGP)」という概念
産後の骨盤まわりの痛みは、医学的には骨盤帯疼痛(PGP:Pelvic Girdle Pain)という概念で整理されています。仙腸関節(骨盤の後ろ側、背骨の根元と骨盤をつなぐ関節)や恥骨結合(骨盤の前側)を中心とした痛みや不安定感が特徴で、腰椎由来の腰痛とは区別して考えることが重要とされています。
欧州脊椎学会(COST Action B13)のガイドラインでも、骨盤帯疼痛と腰痛は原因・評価・対応が異なるものとして区別するよう示されています。「腰痛」としてひとまとめにされてしまうと、評価の視点がずれてしまう可能性があります。
現場で感じること——龍ケ崎の施術室から
当院(茨城県龍ケ崎)の施術の現場では、産後に来院されるママの多くが「腰が痛いというより、骨盤のあたりが安定しない感じ」と表現される傾向を感じています。痛みの場所も、仙腸関節あたり・恥骨・股関節の付け根・お尻の深部など、一箇所に限定されないことが多いように思います。これはあくまで当院の経験上の傾向であり、すべての方に当てはまるものではありませんが、「画像に映らない不安定性」という産後特有の問題が背景にある可能性を示している場合があります。
こうした症状が続く場合や強い痛みがある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
リラキシンと靭帯弛緩——骨盤が「ゆるむ」生理学的メカニズム
産後の骨盤不安定性を語るうえで、まず理解しておきたいのがリラキシン(Relaxin)というホルモンの働きです。リラキシンは主に卵巣・胎盤から分泌されるペプチドホルモンで、妊娠中に骨盤の靭帯をやわらかくして出産に備える役割を担っています。
リラキシンはいつまで分泌されるのか
一般的に、リラキシンの血中濃度は妊娠初期(8〜12週ごろ)に最高値に達し、その後やや低下しながらも妊娠中は継続して分泌されるとされています。出産後は急速に低下しますが、授乳中は比較的高い状態が続くことがあるとも報告されています。これが、授乳期間中も骨盤まわりの不安定感が続きやすい理由のひとつと考えられています(ただし個人差があります)。
靭帯は、骨と骨をつなぐコラーゲン繊維でできた組織です。リラキシンはこのコラーゲン構造に作用し、靭帯の柔軟性を高めます。特に骨盤の関節——仙腸関節・恥骨結合・仙尾関節——を支える靭帯は、この影響を強く受ける部位です。
「ゆるみ」は産後も続く可能性がある
ここで重要なのは、靭帯が一度ゆるんだからといって、出産直後に元の張力に戻るわけではないという点です。靭帯の組織修復には時間がかかります。また、産後は育児による前傾姿勢・抱っこ・睡眠不足による筋疲労なども重なるため、靭帯を補助するはずの筋肉——特に骨盤底筋群や腸腰筋——への負担が増えている可能性があります。
骨盤底筋(骨盤の底を支えるハンモック状の筋肉群)は、分娩時の伸張や圧迫によって機能が低下していることがある筋群です。ここが十分に機能しないと、骨盤帯全体の安定性が崩れやすくなる可能性があります。腸腰筋(腸骨筋+大腰筋の総称)も、骨盤と脊椎をつなぐ重要な安定化筋として知られており、この筋の過緊張や機能低下は骨盤前傾(骨盤が前に傾いた姿勢)を助長する場合があります。
靭帯がゆるみ、それを補うべき筋肉の機能も低下している——この二つが重なると、骨盤帯は「ぐらぐらした状態」になりやすいと考えられます。これが、画像では「異常なし」でも強い不安定感や痛みを感じる理由のひとつとして挙げられます。
骨盤帯不安定性(PGP)と筋膜・内臓連動——整体師・オステオパシーはここを診る
構造的な視点(骨・靭帯・筋肉)だけで産後の骨盤を見ようとすると、見えてこない部分があります。整体師・オステオパシーの視点からは、筋膜の連動と内臓との関係もあわせて評価することが大切だと考えています。
筋膜連動という視点
筋膜(fascia)とは、筋肉・臓器・骨などを包み込む結合組織の膜システムです。イタリアの解剖学者ルイジ・ステッコらの研究(筋膜マニピュレーション理論)によって、筋膜が全身をつなぐ張力伝達システムとして機能することが注目されています。
産後の身体では、骨盤底筋・仙腸関節周囲の靭帯・腸腰筋が連動して骨盤を支えています。しかし靭帯弛緩によって仙腸関節が不安定になると、この張力バランスが変化し、隣接する筋膜ラインに代償的な緊張が生じる可能性があります。たとえば、骨盤後面の筋膜緊張が殿部から大腿後面へと連鎖したり、骨盤前面の緊張が腸腰筋の過緊張と骨盤前傾を引き起こしたりするケースが想定されます。
当院の施術の現場でも、産後に来院された方の仙腸関節や骨盤底へのアプローチ後に、腰部や下肢の緊張感が変化する傾向を感じることがあります。これは筋膜連動が実際の身体で起きている可能性を示しているかもしれませんが、個人差が大きく、すべての方に同じ変化が起きるわけではありません。
内臓との連動——見落とされがちな産後の変化
オステオパシーの視点では、骨盤内の臓器(子宮・膀胱・腸管)と骨格・筋膜の関係も重視されます。妊娠・出産を経た子宮は位置や緊張状態が変化している場合があり、それが骨盤内の膜系(腹膜・骨盤内筋膜)の張力に影響している可能性があります。
たとえば、子宮と膀胱は骨盤内で膜系を通じて常に相互作用しています。産後に「骨盤底の圧迫感」「尿漏れ」「下腹部の重だるさ」が重なって現れやすいのは、こうした内臓と骨盤底筋・骨盤内筋膜の連動が関係している可能性があります。また、S状結腸など骨盤内の腸管の可動性が低下すると、周囲の筋膜張力を変化させる可能性も指摘されています。
構造(骨・靭帯・筋肉)、膜系(筋膜・腹膜・骨盤内筋膜)、内臓の三つの視点を統合して産後の骨盤を評価すること——これが整体師・オステオパシーが大切にするアプローチの方向性です。
骨盤・内臓・筋膜の連動と、腰痛が戻りにくくなる考え方は有料コンテンツに詳しく書いています。
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産後の骨盤をどう捉え直すか——構造×膜×全体性からの整体師の視点
ここまで、リラキシンによる靭帯弛緩・骨盤帯不安定性(PGP)・筋膜連動・内臓との関係という流れで産後腰痛の仕組みを見てきました。最後に、整体師として「産後の骨盤をどう捉えるか」という全体的な視点を共有したいと思います。
「骨盤矯正」だけでは足りないかもしれない理由
産後骨盤矯正という言葉はよく聞かれますが、骨盤の骨の位置だけを整えることに焦点を当てたアプローチには、見落としが生じやすい部分があると感じています。なぜなら、骨盤の安定性は「骨の位置」だけでなく、靭帯の張力・筋肉の協調性・筋膜の連動・骨盤内臓器の可動性が複合的に絡んでいるからです。
骨盤の骨を動かしても、それを支える靭帯の弛緩が続いていれば、すぐに元の状態に戻りやすい可能性があります。また、産後の仙腸関節は通常よりも可動域が大きくなっている場合があるため、むやみに強い矯正刺激を加えることが適切かどうか、慎重に考える必要があると考えています。
全体性という視点——身体はひとつのシステムとして
オステオパシーを学ぶ専門校での学習や、産後リハビリの国際セミナーを通じて私が深く実感しているのは、「身体はひとつのシステムとして機能している」という考え方の重要性です。産後の腰痛・骨盤帯の痛みも、局所的な問題として捉えるのではなく、構造(骨・靭帯・筋肉)×膜系(筋膜・腹膜)×全体性(内臓・自律神経・ホルモン環境)という三つの視点を重ねて評価することで、より深い理解に近づけると感じています。
茨城県龍ケ崎を拠点にした当院の施術でも、産後のお身体に対しては「骨盤の骨だけを見る」のではなく、骨盤底筋・仙腸関節・内臓の可動性・筋膜の張力バランスを丁寧に評価しながらアプローチの方向を考えるようにしています。すべての方に同じ結果が出るわけではありませんが、全体性を意識した評価が施術の視点を広げると感じています。
産後の骨盤の痛み、いつまで続くのか
「産後 骨盤 痛み いつまで」という疑問をお持ちの方も多いと思います。文献によると、産後の骨盤帯疼痛(PGP)は多くの場合、産後3〜6ヶ月以内に自然に軽減していくことが多いとされています。ただし、一部の方では1年以上症状が続く場合もあると報告されており、個人差が大きいことも事実です。痛みや不安定感が強い場合・日常生活に支障が出ている場合は、自己判断せず産婦人科や整形外科、または産後リハビリを専門とする施術者にご相談されることをお勧めします。
まとめ
産後の腰痛と骨盤まわりの不安定感は、リラキシンによる靭帯弛緩・骨盤帯不安定性(PGP)・筋膜連動・骨盤内臓器との関係が複合的に絡み合っている可能性があります。「画像に異常なし」と言われても、軟部組織レベルの問題は十分に起きている場合があります。構造×膜×全体性という視点で産後の身体を丁寧に評価し、焦らず段階的にアプローチしていくことが大切だと考えています。一人ひとりの身体の状態は異なりますので、気になる症状が続く場合は専門家にご相談ください。
よくある質問
Q. 産後の骨盤の痛みはいつまで続くの?
A. 個人差はありますが、リラキシンの分泌は産後3〜6ヶ月かけて低下します。ただし筋バランスの乱れや姿勢習慣が残ると、それ以降も痛みが続くケースがあります。
Q. 産後の骨盤がゆがむのはなぜ?
A. 妊娠中に分泌されるホルモン「リラキシン」が靭帯を柔らかくし、骨盤関節の可動性が増します。出産後も靭帯の弛緩が続く期間があるため、骨盤が不安定になりやすい状態が生じます。
Q. 産後腰痛と尿漏れが同時に起きるのはなぜ?
A. 骨盤底筋と腰部・骨盤の安定性は深く連動しています。研究では産後3ヶ月の腰痛・骨盤のゆがみが尿漏れリスクと関連する可能性が示されており、骨盤帯全体の機能として捉える視点が重要です。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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✔ 骨盤・内臓・筋膜の連動と腰痛の本当の原因 ✔ 産後の骨盤底筋と腰痛——整体師の現場観察 ✔ 腸と腰痛がつながる解剖学的メカニズム
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すーさん夫婦の龍ケ崎整体院
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