「レントゲンで変形があると言われたけど、なぜここまで痛いのか説明されなかった」——股関節の痛みを抱える40〜60代の方から、こうした声をよく聞きます。変形の程度と痛みの強さは必ずしも一致せず、そこには筋膜・骨盤・内臓連動といった、画像では見えない仕組みが深く関わっている可能性があります。柔道整復師としての施術経験と、現在学習中のオステオパシーの視点を合わせながら、股関節症の痛みの「本当の原因」を紐解いていきます。
「変形があるから痛い」は本当か——構造変化と痛みのギャップという問題
変形性股関節症と診断された方から、「変形があると言われた。だから痛むのだ」と理解されているケースは非常に多いです。確かに、軟骨が摩耗して骨同士の間隔が狭くなれば、関節への負担は増えます。しかし整体師の視点から見ると、「変形の程度」と「痛みの強さ」は必ずしも比例しない、という現実があります。
実際、整形外科領域の研究でも、変形性関節症の画像所見と自覚症状(痛み)の間には必ずしも強い相関がないことが示されています。同じ程度の変形があっても、ほとんど痛みを感じない方もいれば、日常生活もままならないほどの痛みを抱える方もいます。この「ギャップ」には、構造変化だけでは説明できない要素が関係していると考えられます。
軟骨変性だけが「痛み」の原因ではない理由
股関節の軟骨そのものには、痛みを感じる神経(侵害受容器)はほとんど存在しないとされています。痛みを生じさせるのは、軟骨の下の骨(軟骨下骨)、関節包、滑膜(かつまく:関節を包む薄い膜)、そして関節周囲の筋肉や筋膜です。
つまり、変形によって関節周囲の軟部組織——筋膜や靭帯、筋肉——が緊張・炎症を起こすことが、痛みの大きな要因になっている可能性があります。さらに、臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん:骨盤側の受け皿が浅く、股関節の適合性が低い状態)のような解剖学的な素因がある場合、関節への負担が一点に集中しやすくなり、より早期から痛みが出やすいとも言われています。
すーさん夫婦の龍ケ崎整体院の施術の現場では、レントゲンで「初期の変形」と言われた方でも、骨盤のアライメント(配列)や筋膜の緊張パターンに大きな乱れがあるケースを多く経験します。逆に、画像上は「かなり変形が進んでいる」にもかかわらず、施術後に動きやすさを取り戻される方もいます。これは、痛みの原因の多くが「変形そのもの」ではなく、変形に伴う軟部組織の緊張や機能不全にある可能性を示唆していると、当院では感じています(あくまで当院の臨床経験です)。
股関節症の痛みが生まれる解剖学的メカニズム——関節・筋膜・骨盤の連鎖
股関節の痛みを理解するためには、関節単体ではなく、その周囲の構造が「どのようにつながっているか」を把握することが重要です。整体師やオステオパシーの視点では、関節・筋肉・筋膜・骨盤を一つのユニットとして捉えます。
股関節を取り巻く構造と筋膜連鎖
股関節は、骨盤の臼蓋(受け皿)と大腿骨頭(ボール)が組み合わさって動く球関節です。この関節を安定させる主要な筋肉として、腸腰筋(ちょうようきん:腸骨筋と大腰筋の合称で、股関節を前に持ち上げる深部の筋肉)が挙げられます。腸腰筋は腰椎から始まり、鼠径部(そけいぶ:脚の付け根)を通って大腿骨内側に付着しています。
この腸腰筋が過緊張(慢性的な収縮)を起こすと、股関節が前方に引っ張られ、大腿骨頭が臼蓋の前方に押し付けられる力が生まれます。これが股関節インピンジメント(関節の骨や軟部組織が挟み込まれる状態)を引き起こす一因となる可能性があります。鼠径部に「詰まった感じ」や「深い痛み」を感じる方に、この腸腰筋の緊張パターンが関わっていることは少なくないと感じています。
一方、股関節の外側では大転子(だいてんし:大腿骨の外側の出っ張り)周囲の筋肉や腸脛靭帯(ちょうけいじんたい:大腿外側を走る厚い筋膜性の帯)が緊張しやすくなります。腸脛靭帯が過度に張り詰めると、大転子部に摩擦や圧迫が生じ、外側の痛みや「歩くと痛い」という症状につながることがあります。
筋膜連鎖(きんまくれんさ)という概念では、筋肉はそれぞれ独立して動くのではなく、筋膜という薄い結合組織の「膜」でつながれた一連のチェーンとして機能すると考えます。Steccoらの研究をはじめとする筋膜研究の知見によれば、ある部位の筋膜の張力変化が、離れた部位にまで伝達される可能性があります。股関節の痛みが、実は腰部や骨盤底の筋膜緊張から来ている場合があるのは、こうした連鎖の仕組みで理解できます。
骨盤アライメントと股関節への影響
骨盤アライメント(骨盤の位置・傾き)は、股関節の痛みと深く関係しています。骨盤が前傾(前に倒れた状態)すると、股関節の前方に圧がかかりやすくなります。逆に後傾すると、股関節の上方への適合性が変化し、荷重の集中点がずれます。
腰骨盤の安定性トレーニングにより、腰痛を抱える方の下肢の動作パターンや骨盤アライメントが改善される可能性があるという報告もあります。こうした研究の知見は、骨盤アライメントが股関節への負担と無関係ではないことを示唆しており、股関節痛へのアプローチにおいても骨盤全体を視野に入れることの重要性を感じさせます。
また、鼠径靭帯(そけいじんたい:上前腸骨棘から恥骨にかけて張る靭帯で、鼠径部の境界を形成する)の緊張は、腸腰筋や腸骨筋膜と連動して股関節前面の可動性を制限することがあります。鼠径部の「詰まり感」や「痛み」のある方には、このエリアの評価が欠かせません。
整体師・オステオパシー目線で見る股関節痛の正体——なぜ鼠径部や歩行時に出るのか
「股関節が痛い」と一口に言っても、痛みの場所は人によって様々です。鼠径部(脚の付け根)の深い痛み、大転子周囲の外側痛、お尻から太ももへの放散痛……。この「痛みの場所の違い」が、原因を特定するための重要なヒントになります。
なぜ鼠径部が痛むのか
「股関節痛 鼠径部」という組み合わせは、股関節症でよく見られる訴えのひとつです。解剖学的に見ると、鼠径部には腸腰筋の腱、鼠径靭帯、腸骨筋膜、大腿神経・大腿動静脈が密集しています。変形性股関節症が進行すると、関節包の前壁(前方の袋)が肥厚・硬化し、腸腰筋の滑走(すべり動き)を妨げます。その結果、腸腰筋が常に緊張した状態を余儀なくされ、鼠径部に圧迫・牽引の刺激が加わり続けることになります。
オステオパシーのアプローチでは、こうした部位に対して直接の圧を加えるのではなく、骨盤全体の可動性・内臓との連動性を評価しながらアプローチすることがあります。当院の臨床経験では、鼠径部痛を訴える方の中に、骨盤内の軟部組織(子宮や膀胱周囲の膜)の緊張が股関節前方の筋膜に影響を及ぼしている可能性を感じるケースがあります。これはバラル内臓マニピュレーションでいう「病変連鎖」の考え方と一致する部分があります——ただし、こうした内臓連動の視点はまだ研究段階であり、断定できるものではありません。
なぜ「歩くと痛い」のか
「股関節 歩くと痛い」という症状は、変形性股関節症の進行とともに現れやすい訴えです。歩行時、股関節には体重の3〜5倍の力がかかると言われています。この力を適切に分散できなくなると、関節包・滑膜・骨膜に炎症が生じ、痛みが出やすくなります。
整体師の視点から注目するのは、「歩行のどのタイミングで痛むか」です。踵をついた直後(立脚初期)に痛む場合は、股関節の衝撃吸収機能の低下が疑われます。蹴り出しの瞬間(立脚終期)に鼠径部が痛む場合は、腸腰筋・股関節前方の可動制限が関わっていることが多いと感じます。大転子の外側が痛む場合は、腸脛靭帯の過緊張や中殿筋(ちゅうでんきん)の機能低下が関係していることがあります。
また、茨城・龍ケ崎で施術をしていると、40代・50代の女性で「歩き始めの数歩が特に痛い」「長く歩いたあとに股関節が重くなる」という方に多くお会いします。こうした方の共通点として、骨盤アライメントの乱れと腸腰筋の過緊張、そして臼蓋形成不全の素因が重なっているケースを当院では経験します(個人差があります)。
骨盤・内臓・筋膜の連動と、痛みが戻りにくくなる考え方はnoteに詳しく書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
変形性股関節症の進行と痛みを整体師はどう捉えるか——全体性から読む慢性痛の構造
変形性股関節症は一般的に、初期・進行期・末期という段階で進行すると言われています。しかし整体師・オステオパシーの視点では、「変形がどの程度進んでいるか」と同じくらい、「身体がどのように代償してきたか」を重視します。
「代償の連鎖」が慢性痛を作る
股関節に痛みや可動制限が生じると、身体は無意識にそれを庇う動きを覚えます。例えば、右股関節が痛ければ、左脚に体重を多くかける歩き方になります。すると骨盤が左に傾き、腰椎に側弯的な負荷がかかり、やがて反対側の股関節や膝にも負担が移ります。
オステオパシーの概念では、これを「病変連鎖(いちじせいげん→だいしょう→だいしょうのだいしょう)」と表現します。最初の制限が代償を生み、その代償がさらに別の代償を生む——これが慢性痛の実態である可能性があります。「なぜ痛みの場所を施術しても変わらないのか」という問いに対して、整体師的な答えは「一次制限が別の場所にある可能性があるから」ということになります。
40代女性に股関節症が多い理由——解剖と生理の視点から
「股関節痛 40代 女性」という悩みは非常に多く、整体院にも多くの方がいらっしゃいます。その背景には複数の要因が考えられます。
- 臼蓋形成不全の発生率:臼蓋形成不全は、女性に多い股関節の解剖学的特徴とされており、加齢とともに関節への負担が蓄積しやすい素因のひとつです。
- ホルモン変化による靭帯弛緩:閉経前後のエストロゲン低下は、骨密度だけでなく関節靭帯の弾力性にも影響する可能性があります。靭帯が緩むことで関節の安定性が変化し、筋肉が過剰に補助しようとして緊張が高まることがあります。
- 骨盤底との連動:産後3ヶ月の腰痛と骨盤のゆがみの関連性を調べた研究では、骨盤の不整合が骨盤底筋の機能低下を介して腹圧性尿失禁と関係する可能性が示されています。骨盤底の機能低下は股関節周囲筋の緊張パターンにも影響する可能性があり、産後から数十年後にかけて股関節に問題が出てくるケースの背景のひとつとして考えられます。
- 内臓との膜系連動:オステオパシーの視点では、子宮や膀胱周囲の膜(骨盤内膜)の緊張が股関節前方の筋膜・腸骨筋膜に影響する可能性が指摘されています。当院の臨床経験では、婦人科系の不調と股関節痛を同時に抱える方に、骨盤内の膜系の評価が助けになることがあると感じています(あくまで当院の経験であり、医学的事実として断定するものではありません)。
こうした全体性の視点で股関節痛を見ると、「変形があるから痛い」という一元的な説明では拾いきれない部分が浮かび上がってきます。変形は確かに関節への負担を増やしますが、その「痛みの大きさ」を決めているのは、筋膜の緊張・骨盤アライメント・内臓連動・そして長年の代償パターンの積み重ねである可能性があります。
なお、こうした症状・状態が続く場合や強い痛みがある場合は、自己判断せず整形外科などの医療機関にご相談ください。構造的な変化の程度を正確に把握するためにも、画像検査は重要な情報です。
まとめ
変形性股関節症の「痛みの原因」は、変形そのものよりも、筋膜連鎖・骨盤アライメント・腸腰筋や腸脛靭帯の緊張、そして長年の代償パターンにある可能性があります。整体師・オステオパシーの視点では、関節単体ではなく身体の「全体性」から痛みの構造を読み解くことが大切だと考えています。「なぜこんなに痛いのかわからない」と感じている方に、この記事が少しでも「そういう仕組みがあったのか」というヒントになれば幸いです。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Relationship between low back pain and stress urinary incontinence at 3 months postpartum(Drug Discov Ther 2022) PubMed
- Effect of a lumbopelvic stability training program on lower extremity kinematic parameters in low back pain developers during single-leg squat(Phys Ther Sport 2025) PubMed
よくある質問
Q. 変形性股関節症は歩くと痛みが増すのはなぜですか?
A. 歩行時は股関節に体重の3〜5倍の負荷がかかります。軟骨が薄くなると関節周囲の筋膜や滑膜が代償的に緊張し、荷重のたびに炎症・牽引刺激が生じるため痛みが増強しやすくなります。
Q. 股関節痛で鼠径部(足の付け根)が痛むのはなぜですか?
A. 股関節の前面には腸腰筋・鼡径靭帯・腸骨筋膜が密集しています。関節の炎症や可動制限が生じるとこれらの組織が緊張・短縮し、鼠径部に牽引痛や圧迫感として現れることがあります。
Q. 40代女性に股関節痛が多いのはなぜですか?
A. 女性は骨盤が広く臼蓋の被覆が浅い(臼蓋形成不全)傾向があり、関節への負担が集中しやすい構造です。加えて更年期前後のエストロゲン低下が軟骨・靭帯の柔軟性に影響するため、40〜50代に症状が表面化しやすくなります。
鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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