「食事を変えたら関節の痛みが和らいだ」——そんな体験談を耳にしたことはないでしょうか。その背景には、オメガ3脂肪酸が持つ炎症抑制メカニズムという科学的な理由があると考えられます。慢性炎症は肩こりや腰痛・関節痛といった身体症状の根っこに潜んでいる可能性があり、整体師の視点からも「食と炎症」の関係は見逃せないテーマです。今回は、DHA・EPAがどのように体内で働くのか、そのメカニズムを分かりやすく紐解いていきます。
慢性炎症とは何か——「静かな火事」が体の痛みを作り出す仕組み
炎症といえば、傷口が赤く腫れたり、風邪をひいたときに喉が痛くなったりする反応を思い浮かべる方が多いと思います。これは急性炎症と呼ばれるもので、体が外敵から身を守るための正常な免疫反応です。問題になるのは、この炎症反応が低レベルで慢性的に持続する状態——いわゆる慢性炎症(chronic low-grade inflammation)です。
慢性炎症は「静かな火事」とも例えられます。自覚症状がほとんどないまま体内でくすぶり続け、気づいたときには関節の変性や血管の硬化、あるいは持続的な痛みの感受性亢進という形で表れてくることがあります。整体師として施術の現場に立っていると、慢性的な腰痛や膝の違和感を訴える患者さんの生活習慣に、炎症を助長しやすいパターンが見られることがあります(当院の臨床経験における傾向であり、医学的な因果関係を示すものではありません)。
慢性炎症を引き起こしやすい要因
- 精製糖質・トランス脂肪酸の過剰摂取
- オメガ6脂肪酸(植物油など)とオメガ3脂肪酸のバランスの偏り
- 睡眠不足・慢性的なストレス
- 腸内環境の乱れ(腸管免疫への影響)
- 運動不足・肥満(脂肪組織からの炎症性サイトカイン産生)
特に注目したいのが「オメガ6とオメガ3の比率」です。現代の食生活では、サラダ油・コーン油などに多く含まれるオメガ6脂肪酸の摂取量が過剰になりやすく、相対的にオメガ3脂肪酸が不足している状態が続いている可能性があります。この比率の乱れが、体内の酸化ストレスを高め、慢性炎症を維持してしまう一因になると考えられています。
こうした症状や状態が続く場合や、強い痛みがある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
DHA・EPAはなぜ炎症を抑えるのか——分子レベルで見る脂肪酸の作用機序
青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、体内でどのように炎症を抑える方向に働くのでしょうか。少し踏み込んだ仕組みをご説明します。
アラキドン酸カスケードとの競合
炎症の中心的な経路として知られるのが、アラキドン酸カスケードと呼ばれる反応系です。オメガ6脂肪酸の一種であるアラキドン酸は、体内の酵素(COX・LOX)によってプロスタグランジン(炎症を促進する脂質メディエーター)へと変換されます。プロスタグランジンは痛みや発赤・発熱を引き起こす重要な物質で、一般的な鎮痛薬の多くはこの産生を抑えることで作用します。
ここでEPAが重要な役割を担います。EPAはアラキドン酸と同じ酵素を奪い合うように競合し、アラキドン酸からの炎症性プロスタグランジン産生を相対的に抑える方向に働くと考えられています。さらにEPAから作られるプロスタグランジン系の物質は、アラキドン酸由来のものに比べて炎症惹起作用が弱いとされています。
レゾルビンという「炎症を終わらせる」物質
近年の研究で注目されているのが、DHAやEPAから体内で合成されるレゾルビン(resolvins)と呼ばれる生理活性物質です。レゾルビンは炎症反応を「終息させる」方向にシグナルを送る役割を持つとされており、炎症の単なる抑制ではなく、積極的な「収束」に関わっている可能性が研究で示されています。
つまりオメガ3脂肪酸の働きは、
- 炎症性メディエーター(プロスタグランジン)の産生を競合的に抑える
- 炎症を積極的に終息させるレゾルビンなどの合成を促す
- 細胞膜の脂肪酸組成を変化させ、炎症シグナルの伝わり方を変える可能性がある
という多層的なメカニズムによるものと考えられています。青魚を定期的に食べることや、EPA・DHA由来の栄養を意識することが「体の炎症を抑える食事」として語られる背景には、こうした分子レベルの作用機序があります。なお、どの程度の摂取量でどのような変化が生じるかは個人差が大きく、研究段階の知見も含まれています。
私自身、食生活を植物中心にシフトしてから痛風発作が起きにくくなった感覚があります(個人の体験であり、同様の結果を保証するものではありません)。痛風はまさに尿酸結晶による急性炎症ですから、食事と炎症の関係を身をもって感じているところです。
腸・自律神経・炎症の三角関係——オステオパシー目線で読み解く慢性炎症
ここまでは脂肪酸の生化学的な話が中心でしたが、整体師・オステオパシーの視点から慢性炎症を捉えると、もう一つ重要な軸が見えてきます。それが腸管免疫と迷走神経を介した「腸・自律神経・炎症」の三角関係です。
腸の粘膜には体全体の免疫細胞の約70%が集まっているとも言われています。腸内環境が乱れると腸管免疫の調整が崩れ、炎症性サイトカインの産生が増加する可能性があります。これが全身の慢性炎症につながる経路の一つと考えられています。
迷走神経が「炎症のスイッチ」を調整する
迷走神経は脳から腸まで伸びる副交感神経の幹線道路で、心臓・肺・消化管・肝臓など主要な臓器に広く分布しています。近年、この迷走神経が「炎症反射(inflammatory reflex)」と呼ばれるメカニズムを通じて、末梢組織の炎症レベルを調節している可能性が示されています。
また、腸内の感覚神経が腸内細菌・免疫・神経系を統合的に調整し、過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(IBD)の病態に深く関わっている可能性が報告されています。さらに、耳介への経皮的迷走神経刺激が便秘型IBSモデルで症状を改善したという研究報告もあり、自律神経と腸内環境のバランスを整えるアプローチが注目されています(研究段階の知見であり、臨床応用については継続的な検証が必要です)。
オステオパシーの専門校で学んでいる中で印象的なのは、内臓の動き(モビリティとモティリティ)と自律神経の調節が密接に絡み合っているという視点です。たとえば腸や肝臓の可動性が低下すると、周囲組織との関係性が変化し、自律神経系への影響が波及している可能性があると学んでいます。慢性炎症を「食事だけ」あるいは「構造だけ」で捉えるのではなく、内臓・自律神経・腸内環境を統合的に見ていくことが大切だと感じています。
食と炎症・腸内環境の深いつながりは、有料コンテンツシリーズに整体師の実体験とともに書いています。
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整体師として「炎症体質」をどう捉えるか——構造・内臓・食の統合的視点
「炎症体質」という言葉は医学的な正式用語ではありませんが、整体師の施術現場では「慢性的に炎症が起きやすい状態」の患者さんに共通するパターンを感じることがあります(以下は当院の臨床経験における傾向であり、医学的な因果関係を示すものではありません)。
構造・内臓・食の三軸で見る
私の施術哲学の軸は「BODY(構造・内臓・頭蓋)× MIND(食事・自然療法)× SPIRIT(全体性)」です。慢性炎症を例に、この三軸で考えてみます。
- 構造の視点:姿勢の歪みや関節の可動域制限が続くと、局所の血流や組織液の循環が滞る可能性があります。オステオパシーの概念では、組織への血液・リンパの循環が障害されると、局所の炎症が遷延しやすくなると考えられています。たとえば慢性炎症の後遺症として漿膜(内臓の表面を覆う膜)が乾燥・変性し、隣接組織と癒着することで、微細な制限が積み重なっていく可能性があります。腎臓は1日に約600cmもの移動をしているとされており、わずかな制限でも長期的には大きな影響が生じている可能性があります。
- 内臓の視点:腸・肝臓・腎臓といった内臓の機能と可動性は互いに影響し合っています。慢性炎症が内臓の周囲組織に癒着を作り、内臓の動きを制限するというサイクルが起きている可能性も考えられます。
- 食の視点:オメガ3脂肪酸の摂取バランスや腸内環境への食事の影響は、上述のとおり炎症のベースラインを変える可能性があります。具体的な食事の実践については個人差が大きく、一概に「これが正解」とは言えません。
整体師目線での気づき
龍ケ崎の院で患者さんと向き合っていると、「食生活を少し変えてから体が軽くなった感じがする」とおっしゃる方にお会いすることがあります。もちろんこれは個人の感想であり、施術効果との切り分けも難しいのですが、食・内臓・構造がそれぞれ影響し合っているという視点は、整体師として大切にしたい感覚です。
「なぜ同じ施術をしても、ある患者さんには変化が出やすく、ある患者さんには出にくいのか」——この問いに向き合うとき、構造だけでなく食や腸内環境・自律神経系の状態という視点が施術の視点を広げてくれることがあります。オメガ3と炎症の科学は、施術者が患者さんのライフスタイル全体を俯瞰する際の重要な知識の一つだと感じています。
なお、食事の具体的な実践方法や腸活のアプローチについては、有料コンテンツシリーズに整体師の実体験とともに詳しく書いています。
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まとめ
オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)は、アラキドン酸カスケードへの競合・レゾルビン産生・細胞膜組成の変化という複数の経路を通じて、慢性炎症を抑える方向に働く可能性があります。さらに腸管免疫や迷走神経との深い連携を考えると、「食と体の痛み」の関係は決して単純ではなく、構造・内臓・食の統合的な視点で捉えることが大切だと感じています。日々の食事の選択が、体の炎症環境を少しずつ整えていく可能性があります。ただし効果には個人差があり、持病のある方は必ず主治医にご相談ください。茨城・龍ケ崎の院でも、こうした視点を大切にしながら患者さんと向き合っています。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Gut sensory neurons as regulators of neuro-immune-microbial interactions: from molecular mechanisms to precision therapy for IBD/IBS(J Neuroinflammation 2025) PubMed
- Ameliorating effects of transcutaneous auricular vagus nerve stimulation on a mouse model of constipation-predominant irritable bowel syndrome(Neurobiol Dis 2024) PubMed
よくある質問
Q. オメガ3は毎日摂らないと効果がないですか?
A. オメガ3(DHA・EPA)は体内に蓄積されにくいため、継続的な摂取が炎症抑制効果を維持するうえで重要とされています。単発ではなく日常の食習慣として取り入れることがポイントです。
Q. 青魚を食べると体の痛みが本当に楽になりますか?
A. 青魚に豊富なEPAは、炎症を促進するアラキドン酸と競合し、炎症性物質の産生を抑える働きが研究で確認されています。即効性より継続的な摂取による体質改善として捉えるのが現実的です。
Q. 慢性炎症を食事で改善できるのはなぜですか?
A. 食事由来の脂肪酸は細胞膜の構成成分となり、炎症シグナルの出方そのものを変える力があります。オメガ3とオメガ6のバランスが炎症の「設定温度」を決める、というのが現代栄養科学の基本的な見方です。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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✔ 腸内環境と慢性炎症——何を食べると身体の痛みが変わるか ✔ 整体師が食と身体に向き合った3年間の記録 ✔ 朝フルーツ・植物中心食で身体のリズムが変わった話
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すーさん夫婦の龍ケ崎整体院
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