「椅子から立ち上がるのに、いつの間にか手をついている」「一緒に歩くと歩幅が狭くなって、信号を渡りきれないことがある」——久しぶりに実家に帰ったとき、親のそんな変化に気づく方は少なくありません。この変化は年齢のせいだけではなく、筋肉をつくる材料(たんぱく質)と、筋肉に入る刺激(運動)の両方が足りていない状態が重なって進むことがあります。高齢期は若年層より多くのたんぱく質が必要とされ、さらに筋力トレーニングとの組み合わせが筋肉量・筋力の維持に関わる可能性も報告されています。この記事では、その仕組みを整体師の視点から整理します。
立ち上がりがつらい・歩幅が狭い——高齢期の筋肉に起きている変化
加齢にともなって筋肉量と筋力が落ちていく状態は、サルコペニアと呼ばれています。研究では、高齢者のたんぱく質摂取量とサルコペニアとの関連が報告されており、「食べる量が減ったこと」と「動く量が減ったこと」が重なるほど進みやすい状態と考えられています。
ここで押さえておきたいのは、筋肉の減り方には偏りがあるという点です。加齢で先に落ちやすいのは、速く強く力を出す筋線維(速筋線維)だとされています。つまり「ゆっくり歩く」ことはできても、「とっさに踏ん張る」「椅子から一気に立ち上がる」といった動作から先に難しくなっていく。ご家族が最初に気づくのが、歩行そのものではなく立ち上がり・階段・つまずいたときの立て直しなのは、この順序で説明がつきます。
気づきやすい初期サイン
- 椅子やソファから立つとき、肘掛けや膝に手をつくようになった
- 横断歩道を渡りきれないことがある(フレイルの評価では歩行速度が指標の一つとされています)
- ペットボトルの蓋が開けにくい、買い物袋を持つ手が替わる
- 食事量が減り、肉・魚・卵・大豆製品の登場回数が少なくなった
- 以前より転びかけることが増えた
フレイル(心身の活力が低下し、健康と要介護の中間にある状態)の評価では、歩行速度や握力、体重減少などが組み合わせて見られます。歩行速度の低下は見た目でわかりやすく、ご家族が最初に相談のきっかけにする変化でもあります。
ただし、急に歩けなくなった、片側だけ力が入らない、しびれをともなう、原因のはっきりしない体重減少がある——こうした場合は加齢による筋力低下とは別の問題が隠れていることがあります。こうした症状が続く場合や強い痛みがある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
なぜ高齢者は若い頃より多くのたんぱく質が必要なのか(PROT-AGEと同化抵抗性)
「年をとったら、あっさりしたものを少しでいい」——よく聞く言葉です。ところが栄養学の側から見ると、この発想は筋肉にとって不利に働く可能性があります。
高齢者の栄養について検討したPROT-AGE研究グループは、高齢期には若年層よりも多くのたんぱく質が必要とされると提言しています。若い人と同じ量を食べていても足りない、という考え方です。具体的な推奨量や、腎機能など個別の事情をふまえた調整については、必ず医師や管理栄養士にご相談ください。
同じ量を食べても筋肉になりにくい「同化抵抗性」
その背景として説明されているのが同化抵抗性(アナボリック・レジスタンス)という考え方です。たんぱく質を食べると、体内ではアミノ酸をもとに筋たんぱくを合成するスイッチが入ります。ところが加齢にともなって、このスイッチが入りにくくなる——つまり同じ量のたんぱく質を食べても、若い頃ほど筋肉の合成が立ち上がりにくくなるとされています。
だから、必要量が「増える」。若い頃の食べ方を維持しているつもりでも、実際には材料不足になっているケースがあるわけです。しかも高齢期は、
- 噛む力・飲み込む力が落ちて、肉や硬い食材を避けるようになる
- 一人暮らしや調理の負担で、主菜が省かれ麺類・パン・お茶漬けに偏る
- 朝食のたんぱく質がほぼゼロで、夕食に偏る
- 胃もたれを避けて脂の多い食材を減らし、結果として主菜全体が減る
といった事情が重なりやすい。摂取量が減る方向の圧力と、必要量が増える方向の生理が、同時に働いているということです。
整体師目線で付け加えると、食べる量の減少には消化の側の事情もあります。施術の現場では、胃の不快感や食後の重だるさを訴える方で、横隔膜まわりの動きが硬くなっている印象を受けることがあります。消化に負担を感じると食事量が自然と減り、結果として筋肉の材料も減る。この連鎖は、これまで診てきた範囲ではよく見かけるパターンです(医学的に証明された因果関係としてではなく、現場で感じている傾向としてお読みください)。
ホエイプロテインと筋力トレーニングを併用する意味——材料と刺激の両輪
材料があっても、使う刺激がなければ筋肉は増えません。逆に運動しても材料がなければ、修復と合成が追いつきません。研究では、ホエイプロテインの摂取と筋力トレーニングを組み合わせた場合に、筋肉量や筋力の維持に役立つ可能性が示されています。「どちらか」ではなく「両輪」という発想です。
なぜホエイプロテインが研究で使われるのか
ホエイ(乳清)は牛乳由来のたんぱく質で、消化吸収が比較的速く、筋たんぱく合成のスイッチに関わるとされるロイシンというアミノ酸を多く含むことが知られています。同化抵抗性のある高齢期では、スイッチを入れるためにある程度まとまった量のロイシンが必要になると考えられており、研究で扱われやすい理由はここにあります。
ただし、ここは誤解されやすいところなので一つだけ。プロテインは食事の代わりではなく、食事で足りない分を埋める位置づけです。食事が整っているなら、わざわざ粉で足す必要がない方もいます。腎機能に不安のある方、持病のある方、服薬中の方は、量も可否も必ず主治医や管理栄養士に確認してください。乳製品でお腹が緩くなる方もいます。
刺激の側——レジスタンストレーニング
刺激にあたるのがレジスタンストレーニング(筋肉に負荷をかける運動。いわゆる筋トレ)です。高齢期では、ウォーキングだけでは先に落ちていく速筋線維への刺激になりにくい面があります。散歩を毎日している親御さんでも立ち上がりが弱い、というのはよくある話で、これは「歩くこと」と「立ち上がること」で使う筋肉の質が違うためと考えられます。
とはいえ、膝や腰に痛みがある状態で自己流の負荷をかけるのは勧められません。どんな運動を、どの強さで行うかは、かかりつけ医やリハビリ専門職と相談しながら決めるのが現実的です。この記事では具体的な手順には踏み込みません。
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整体師が触れてわかる「使えていない筋肉」——構造・内臓・食の三軸で考える
すーさん夫婦の龍ケ崎整体院では、茨城県龍ケ崎市で親御さんを連れて来られるご家族にお会いすることがあります。そこで感じるのは、筋肉が「無い」のか「使えていない」のかは、意外と分けて考えられるということです。
たとえば立ち上がり動作。股関節が後ろに引けず、足首が十分に曲がらないままだと、お尻や太ももの前の筋肉に力が入る姿勢をそもそも作れません。筋肉の量の問題というより、関節の可動と重心の移動が噛み合っていない状態です。触れてみると、お尻の筋肉が「硬い」のではなく「出番がなくて反応が鈍い」ように感じられることがあります。こうした場合、股関節・骨盤・足部まわりの動きを確認し、関係していると考えられる部位もあわせて整えることで、動き出しの感覚が変わったと話される方もいます(個人差があります)。
内臓と腹圧という、もう一本の軸
オステオパシーの考え方では、お腹の中の圧(腹腔内圧)が体幹を支える柱のように働くと捉えます。腹筋の緊張が落ちると内臓を支える力が弱まり、下垂の連鎖が起きやすくなるという見方です。腹圧が抜けた状態では、立ち上がるときに体幹が先に崩れ、脚だけで持ち上げようとして余計にきつくなる。同時に、内臓の働きが鈍ると食欲や消化にも影響しうるため、材料(食)・構造(骨格)・内臓の三つが同じ輪の中でつながっていきます。
私自身、平日はほぼ植物中心の食事で、週末は肉や刺身も食べるというゆるいスタイルを続けています。食の内容を変えてから体調の感覚が変わってきた実感がありますが、これはあくまで個人の体験です。高齢のご家族に当てはめる前に、必ず専門家に相談してください。
日々の施術のなかで強く思うのは、「歳だから」で止めずに、材料・刺激・構造のどこが抜けているかを一つずつ見ていくと、できることがまだ残っている場合が多い、ということです。
まとめ
立ち上がりの弱さや歩幅の狭まりは、サルコペニアの入口のサインとして現れることがあります。高齢期は同化抵抗性の影響で、若い頃と同じ食べ方では材料が足りなくなる可能性があり、PROT-AGE研究グループも若年層より多くのたんぱく質が必要と提言しています。そこにレジスタンストレーニングという刺激が加わってはじめて、筋肉量・筋力の維持につながる可能性が示されています。食事量や運動内容の具体的な調整は、医師・管理栄養士・リハビリ専門職にご相談ください。気になる変化が続く場合は、早めに医療機関へ。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Protein Intake and Sarcopenia in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis(Int J Environ Res Public Health 2022) PubMed
- Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group(J Am Med Dir Assoc 2013) PubMed
- Effectiveness of Whey Protein Supplementation during Resistance Exercise Training on Skeletal Muscle Mass and Strength in Older People with Sarcopenia: A Systematic Review and Meta-Analysis(Nutrients 2023) PubMed
- Nutritional strategies for improving sarcopenia outcomes in older adults: A narrative review(Pharmacol Res Perspect 2024) PubMed
よくある質問
Q. 高齢者はたんぱく質をどのくらい摂ればいいですか?
A. PROT-AGE研究グループは、高齢期には若年層より多くのたんぱく質が必要と提言しています。ただし腎機能や持病で適量は変わるため、具体的な量は医師や管理栄養士にご相談ください。
Q. プロテインを飲むだけで筋肉は増えますか?
A. 研究では、ホエイプロテインの摂取と筋力トレーニングを組み合わせた場合に筋肉量や筋力の維持に役立つ可能性が示されています。材料だけでなく、筋肉への刺激がセットで必要と考えられます。
Q. 食が細い親にプロテインを勧めても大丈夫でしょうか?
A. 食事量が落ちている方ほど材料不足になりやすい一方、腎機能や服薬状況により注意が必要な場合があります。導入の可否と量については、かかりつけ医や管理栄養士への相談をおすすめします。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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