進行がんの痛みと眠れない夜|マッサージと鍼を仕組みで比べる

オステオパシー
この記事は個人の体験談と参考書籍をもとにした健康情報です。医療的な診断・治療に代わるものではありません。持病のある方・服薬中の方は必ず主治医にご相談ください。
進行がんの痛みと眠れない夜の挿絵(水彩)

痛みで眠れず、眠れないから翌日の痛みとだるさがさらに重くなる。進行がんの痛みと眠れなさを抱える方やそのご家族から、こうした悪循環の話を耳にすることがあります。この循環には、痛みの感じ方と眠りが互いに影響し合う身体の仕組みが関わっていると考えられています。本記事では、マッサージと鍼という2つの手技の違いを仕組みから比べ、医療と並行して暮らしを支える視点を、茨城県で整体院を営む私たち(柔道整復師の資格を持つ夫婦)がまとめます。

痛みと眠れなさが重なると、なぜ一日がこんなに長く感じるのか

痛みがある夜は、横になってからの時間が長く感じられます。寝返りのたびに目が覚め、時計を見るとまだ2時。朝になっても眠った感覚が薄く、日中はだるさ・疲労感とぼんやりした眠気が続く。夜も昼も休まらない状態が重なると、一日の輪郭そのものがぼやけていきます。

夜と昼がつながってしまう

本来、夜は身体を休ませる時間で、昼は活動する時間です。ところが痛みで睡眠の質が下がると、日中に横になる時間が増え、夜にまた眠りにくくなる、という形で昼夜の区切りが薄くなりがちです。そのうえで、次のようなことが重なりやすくなります。

  • 夜中に目が覚めるたびに痛みに意識が向き、考えごとが止まらなくなる
  • 日中のだるさで、人と話す・外に出るといった気分転換の機会が減る
  • 家族を起こしたくないと我慢して、つらさを一人で抱え込む

こうした積み重ねは、痛みそのものだけでなく、生活の質(QOL)全体に影響すると考えられます。

緩和ケアは「最後のケア」ではない

ここで知っておいていただきたいのが、緩和ケアという考え方です。国立がん研究センターのがん情報サービスでは、緩和ケアは病気と診断されたときから、医療と並行して受けられるものと説明されています。痛みや眠れなさ、だるさは、我慢するものではなく相談してよい症状です。痛みの強さや夜の眠り方は、主治医や看護師、緩和ケアチームにそのまま伝えてください。痛み止めの種類や飲む時間の調整で、夜の過ごし方が変わる方もいます。

痛みが眠りを浅くし、眠れなさが痛みを強く感じさせる身体の仕組み

痛みと眠りの関係は一方通行ではなく、行き来する関係にあると一般に説明されています。順に見ていきます。

痛みが眠りを浅くする流れ

痛みは、身体にとって「注意を向けるべき信号」です。痛みの信号が届いているあいだ、脳は警戒の状態を保ちやすく、自律神経の働きも活動寄りになりやすいと考えられています。心拍や呼吸が落ち着きにくく、眠りに入っても浅い段階にとどまりやすい。そのため、少しの痛みや物音でも目が覚めてしまうことがあります。

眠れなさが痛みを強く感じさせる流れ

反対に、睡眠が足りない状態が続くと、同じ刺激でも痛みとして強く感じやすくなると、専門書などでは説明されています。痛みは、身体の傷の大きさだけで決まるものではなく、脳がその信号をどう受け取るかという「痛みの感じ方」の側面も持っています。疲れや不安が重なっているときに痛みが強く感じられるのは、気のせいではなく、こうした仕組みが関わっている可能性があります。

身体の構造から見えること

整体師目線で見ると、もうひとつ気になるのが、痛みをかばう姿勢です。痛みのある場所を守ろうとすると、周りの筋肉や筋膜(筋肉を包む薄い膜)に力が入り続けます。胸やお腹まわりがこわばると、呼吸の主役である横隔膜の動きが小さくなり、呼吸が浅くなりやすい。すーさん夫婦の龍ケ崎整体院の施術の経験では、つらさを長く抱えている方ほど、肩や首、みぞおちのあたりに力が入ったまま、ご本人もそれに気づいていないことが多いと感じています。

ただし、眠れなさの背景には、痛み以外にも薬の影響、不安、夜間の頻尿、発汗など、さまざまな要素が関わります。人によって背景は異なるため、何が眠りを妨げているかは、主治医への相談のなかで一緒に整理していくことが大切です。

マッサージと鍼はどこが違うのか|触れる刺激と刺す刺激をオステオパシーの目で比べる

進行がんの方が鍼とマッサージの比較を調べるとき、知りたいのは「どちらが良いか」かもしれません。ただ、この2つは身体への入り方が異なる手技療法で、優劣を並べるより、性質の違いを知ることが判断の助けになると考えています。

鍼とマッサージを比べた米国の研究(進行がんの方298人・2023年)では、26週間のあいだに、痛みの変わり方に2つの間ではっきりした差は見られなかったと報告されています。何も受けない群との比べはない研究なので、どちらかが効くと言える結果ではありません。

マッサージ:皮膚の表面から広く触れる刺激

  • 手のひらや指で、皮膚と筋肉に圧やさする動きを加える
  • 触れる・押されるという感覚は、痛みの信号の伝わり方に関わると説明されることがある(ゲートコントロール理論と呼ばれる考え方)
  • 人の手が触れること自体が、緊張に気づくきっかけになる場合がある

一方で、腫瘍のある部位、骨への転移が疑われる部位、むくみやリンパ浮腫のある部位、放射線をあてた皮膚などには、強い圧をかけないことが一般的な注意点とされています。血栓が疑われる脚には触れず、まず医師に相談してください。血小板が少ない時期は、あざができやすいこともあります。

鍼:皮膚の中へ届く、点の刺激

  • 細い鍼を皮膚から刺し入れ、局所に小さな刺激を加える
  • 神経を通じて、身体がもともと持つ痛みを調整する仕組みに働きかけると考えられているが、仕組みについては研究段階の部分も多い
  • 日本では、はり師という国家資格を持つ人が行う

皮膚の中に入る刺激なので、白血球が少なく感染が心配な時期や、血小板が少なく出血しやすい時期には、医師の判断が欠かせません。なお、鍼ははり師、マッサージはあん摩マッサージ指圧師という国家資格の業務で、私たちはどちらも行いません。

オステオパシーの目で見る共通点

オステオパシーでは、身体を部分の集まりではなく、筋膜や内臓、呼吸のリズムでつながったひとつのまとまりとして見ます。この視点から見ると、マッサージも鍼も身体への「入力」であり、大切なのは刺激の種類より、その方の身体がいま受け取れる量かどうかだと考えています。強い刺激がかえって負担になる時期もあります。触れる手技であれば、圧の強さ、触れる時間、姿勢をその都度調整できることは、性質のひとつと言えるでしょう。

整体師が大切にしたい視点|医療チームとつながりながら暮らしの質を支える

痛みと眠れなさが続くとき、中心にあるのはいつも医療です。手技療法は、医療の代わりではなく、主治医や緩和ケアチームの方針を前提に、暮らしの質を支える選択肢のひとつとして考えるものだと、私たちは捉えています。

手技療法を考える前に確かめたいこと

  1. マッサージや鍼を受けてよい時期か、主治医に相談する
  2. 避けたほうがよい部位(転移やむくみ、手術や放射線の部位など)を確認する
  3. 血液検査の数値で注意が必要な時期かどうかを聞いておく
  4. 施術者には、病状と医師から言われている注意点をそのまま伝える

すぐに医療機関へ相談してほしいサイン

次のような変化があるときは、手技を受けるより先に医療機関へ連絡してください。

  • これまでと違う場所の痛みや、急に強くなった痛み
  • 手足のしびれや力の入りにくさ、歩きにくさ
  • 発熱、片脚だけの腫れや痛み
  • 眠れない状態が続き、日中の生活が保てない

こうした症状・状態が続く場合や強い痛みがある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

まとめ:痛みと眠りは互いに影響し合い、だるさや不安とも重なって悪循環をつくりやすいと考えられています。マッサージは皮膚の表面から広く触れる刺激、鍼は皮膚の中へ届く点の刺激で、どちらにも時期や部位による注意点があります。大切なのは、どの手技を選ぶかより先に、つらさを主治医や緩和ケアチームに伝え、医療とつながりながら暮らしを整えていくことです。手技療法は、その上で考えられる選択肢のひとつです。

免責事項:本記事は個人の体験談および一般的な健康情報の提供を目的としており、医療診断・治療に代わるものではありません。同様の効果を保証するものではありません。持病のある方・服薬中の方は生活習慣の変更前に必ず主治医にご相談ください。

参考文献

本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。

  1. Acupuncture vs Massage for Pain in Patients Living With Advanced Cancer: The IMPACT Randomized Clinical Trial(JAMA Netw Open 2023) PubMed

よくある質問

Q. 進行がんでもマッサージや鍼を受けて大丈夫?

A. まず主治医や緩和ケアのスタッフに相談してください。骨の状態、血液の状態、皮膚の状態、治療の内容などによって配慮すべき点が変わるためです。受ける場合は、施術者にも治療状況や服薬内容をきちんと伝えることが大切です。

Q. マッサージと鍼、どっちを選べばいいの?

A. マッサージは広い面で皮膚や筋膜に触れ、鍼は皮膚の一点から深い層へ刺激が入るという違いがあります。体調や治療の状況、好みによって合うものは人それぞれです。受けるかどうかは、主治医の判断を優先してください。

Q. がんの痛みで眠れないとき、最初に誰に相談すればいい?

A. 痛みや不眠はがまんせず、まず主治医や緩和ケアチームに伝えてください。痛み止めの調整や睡眠についての相談ができます。マッサージや鍼などの手技療法は医療の代わりではなく、医療と並行して暮らしを支える選択肢のひとつとして考えてください。

鈴木大樹

鈴木大樹(すずき だいき)

柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了

茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。

さらに深く知りたい方へ

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