「なんとなく身体がだるい」「痛みが慢性化している」——その根っこに、静かに燃え続ける慢性炎症があるかもしれません。近年、ファスティング(断食)がその炎症を鎮める可能性として注目されていますが、なぜ食べないことが炎症リセットにつながるのか、そのメカニズムを知っている人はまだ多くないのではないでしょうか。柔道整復師としてオステオパシーを学びながら、身体の内側から診てきた視点と、オートファジー研究の知見を交えながら、断食が慢性疾患にどう作用するかを深掘りしていきます。
現代人の身体で「炎症」が慢性化しやすい理由——静かに燃え続ける火種
炎症そのものは、身体を守るための正常な反応です。ケガをしたとき、ウイルスが侵入したとき、免疫細胞が集まり患部を修復しようとする——これが本来の炎症の役割です。問題は、この反応が何週間も、何年もくすぶり続けるときです。これを慢性炎症と呼びます。
慢性炎症が厄介なのは、発熱や腫れといった分かりやすいサインがほとんど出ないことです。「なんとなく疲れが抜けない」「関節がこわばる」「お腹の調子が悪い日が続く」——こうした曖昧な不調として現れることが多く、気づかないまま年単位で進行してしまう可能性があります。
現代人に慢性炎症が起きやすい背景
なぜ今の時代、慢性炎症が広がりやすいのか。いくつかの要因が重なっていると考えられます。
- 食環境の変化:精製糖質・加工食品・植物油脂の過剰摂取は、炎症を促す物質(サイトカイン)の産生を高める可能性があります。
- 腸内環境の乱れ:腸は免疫細胞の約70%が集まる場所とも言われています。抗生剤の多用・食物繊維不足・ストレスによって腸内フローラが乱れると、炎症の火種になりやすい状態が続く可能性があります。
- 活性酸素の蓄積:過労・紫外線・喫煙・睡眠不足などで活性酸素が増えると、細胞へのダメージが慢性化し、炎症反応が継続しやすくなると考えられています。
- 自律神経バランスの崩れ:慢性的なストレスは交感神経優位の状態を長引かせ、炎症を調整する副交感神経の働きを弱める可能性があります。
龍ケ崎の施術の現場でも、慢性的な肩こりや腰痛を抱える患者さんと食生活や睡眠について話すと、「食事がほぼ外食」「睡眠時間が5時間以下が続いている」というケースが少なくありません。当院の経験では、こうした生活習慣が続いている方ほど、症状が再発しやすい傾向を感じることがあります。もちろん個人差があり、一概には言えませんが、身体の状態と生活習慣は切り離せないと感じています。
地中海式食事(野菜・魚・オリーブオイル中心)が持つ抗炎症・抗酸化作用が、線維筋痛症や子宮内膜症による慢性的な痛みや炎症症状を和らげる可能性があるという報告もあります。食事内容が炎症反応に影響を与え、慢性痛の管理に役立つ可能性が示されていることは、整体師として非常に興味深いところです。
オートファジーとは何か——細胞レベルで起きる「炎症リセット」の生理学
ファスティングが炎症に作用する仕組みを語るうえで、欠かせない概念がオートファジー(autophagy)です。2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏の研究によって広く知られるようになったこのメカニズムは、「細胞が自分自身の古くなった部品を分解・再利用する」仕組みです。
オートファジーが炎症に関わる仕組み
私たちの細胞の中には、機能が低下したミトコンドリア(エネルギー産生の場)や、折り畳みが崩れたタンパク質、ウイルスの残骸など、さまざまな「老廃物」が蓄積します。これらが細胞内に溜まると、活性酸素が増え、免疫系が過剰反応し、炎症のシグナル物質であるサイトカインが出やすくなる可能性があります。
オートファジーはこうした細胞内の「ゴミ」を自ら包み込み、分解・再利用するプロセスです。研究レベルでは、このオートファジーが活性化することで、炎症を引き起こすサイトカインの産生が抑制される可能性があると報告されています。
では、オートファジーはどのようなときに活性化しやすいのか。現在の研究では、食事を摂らない時間が続いたとき——つまりファスティング中——に活性化しやすくなると考えられています。食事をすると、インスリンが分泌され、細胞に栄養が供給されます。この状態ではオートファジーは抑制気味になります。一方、食事の間隔が空いてインスリン分泌が落ち着くと、細胞は「外から栄養が来ない」と判断し、自己分解・再利用モードに入りやすくなるとされています。
ただし、これはあくまで研究段階の知見であり、「ファスティングをすれば必ずオートファジーが起きて炎症が消える」という断言は現時点ではできません。どのくらいの時間、どのような形の断食が有効かについても、個人差があることを前提に理解しておく必要があります。
また、断食によって腸内環境にも変化が生じる可能性があります。腸内細菌のバランスが整い始めることで、腸から全身への炎症シグナルが変化するという仮説も研究者の間で議論されています。腸と炎症の関係は、まだ解明途中の分野ですが、整体師としても非常に注目しているテーマです。
私自身も、食生活を植物中心に切り替えてから、かつて繰り返していた痛風発作が起きにくくなってきた感覚があります(個人の体験です)。痛風は尿酸の結晶による炎症反応ですが、食事内容と炎症の関係を自分の身体で実感した出来事でした。
整体師が3年間食と向き合った記録——何を変えてどう変わったか、その全貌はnoteで読めます。
→ https://note.com/honest_rose9929
内臓・筋膜・自律神経から見た炎症——整体師・オステオパシーが気づく慢性疾患との連動
炎症というと「患部の問題」として局所的に捉えられがちですが、整体師・オステオパシーの視点では、慢性炎症は身体全体の構造的・機能的なバランスの乱れと深く連動していると考えます。
慢性炎症と内臓連動の関係
オステオパシーの内臓マニピュレーション(内臓への手技的アプローチ)の考え方では、各臓器は腹膜や筋膜、靭帯によって互いにつながり、動きの自由度(可動力・自動力)が保たれているとされています。炎症の後遺症として漿膜(しょうまく:臓器を包む薄い膜)が変性・乾燥すると、隣接する組織との間に癒着が生じる可能性があります。
たとえば腸内で慢性的な炎症が続いた場合、腸と周辺の組織との間に微細な癒着が起き、腸の動きが制限される可能性があります。腸の動きが制限されると、蠕動運動(ぜんどううんどう:腸が波打ちながら内容物を送る動き)が低下し、さらに腸内環境が乱れるという悪循環が生じる可能性があります。
また、こうした内臓の制限は自律神経バランスにも影響を与えやすいと考えられています。内臓の周囲には自律神経が豊富に分布しており、内臓の動きの異常が神経を通じて脊椎・筋骨格系に反射的な緊張をもたらす可能性があります。慢性的な腰痛や肩こりの背景に、内臓の機能的な問題が関与している可能性があるという考え方は、オステオパシーでは古くから重視されてきた視点です。
茨城・龍ケ崎の施術の現場では、慢性的な腰痛や消化器系の不調を同時に訴える患者さんに接することがあります。当院の経験では、内臓と筋骨格系の両面からアプローチすることで、どちらか一方だけにアプローチするよりも身体の状態が整いやすくなる場合があると感じています。ただし、これは個人差があり、すべての方に当てはまるものではありません。
ファスティング中は内臓への負担が一時的に軽減されると考えられます。消化・吸収・解毒に費やしていたエネルギーが、細胞の修復・炎症の鎮静に振り向けられやすくなる可能性があります。この「内臓の休息」という考え方は、オステオパシーの視点から見ても興味深い仮説です。ただしこれはあくまで考え方の一つであり、科学的に確立された事実ではないことを付記しておきます。
また、活性酸素が蓄積して細胞がダメージを受け続けると、慢性炎症が持続しやすくなる可能性があります。ファスティング中に活性化するとされるオートファジーが、損傷を受けたミトコンドリアを処理することで活性酸素の産生を抑える方向に働くかもしれない——という仮説は、今後の研究によってさらに検証が進むことが期待されます。
こうした症状が続く場合や強い痛みがある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
食と断食が身体の全体性に働きかける理由——整体師としての視点と考え方
私が施術哲学として大切にしているのは、BODY(構造・内臓・頭蓋)× MIND(食事・自然療法)× SPIRIT(全体性)という三軸のつながりです。筋骨格系だけを整えても、食事・腸内環境・自律神経バランスが乱れていれば、身体が整いにくい状態が続く可能性があります。逆に言えば、食と断食という「食べ方の選択」は、身体の全体性に働きかける入口になり得ると考えています。
なぜ「食べない時間」が身体に変化をもたらすのか
現代の食環境では、1日の中で「消化していない時間」がほとんどない人が少なくありません。朝起きてすぐに食事を摂り、間食をはさみ、夜遅くに食べる——こうしたパターンが続くと、消化器系は常に稼働し続けることになります。内臓が休む間もなく働き続けることで、消化酵素や胆汁の分泌リズムが乱れ、腸内環境や肝臓・胆嚢の機能にも影響が出てくる可能性があります。
ファスティングは、こうした「止まれない消化サイクル」に意図的に休息を与える行為と捉えることができます。断食によって消化器系の負担が軽減されると、腸の蠕動リズムが落ち着き、腸内環境が整いやすくなる場合があります。また、肝臓が解毒や代謝の仕事に集中できる状態になる可能性があります。
自律神経バランスという観点からも、ファスティングは興味深い作用をもたらす可能性があります。食事の刺激が減ることで、消化に関わる副交感神経の過剰な働きが落ち着き、全体的な神経系のトーン(緊張度)が整いやすくなる場合があると考えられます。ただしこれも研究段階の考え方であり、効果には個人差があります。
私自身は、平日は植物中心の食事を続け、週末は柔軟に楽しむゆるいスタイルを続けています。食生活を変えてから血圧の数値が落ち着いてきた感覚があります(個人の体験であり、同様の変化を保証するものではありません)。身体の変化は数字だけでなく、朝の目覚めや施術後の疲れ方など、日常の細かいところで感じることが多いです。
ただし、ファスティングはすべての人に適しているわけではありません。糖尿病・摂食障害・消化器疾患・低血糖傾向がある方、妊娠中・授乳中の方、成長期の方などは特に注意が必要です。実践を検討する場合は、必ず主治医や専門家に相談した上で行うことを強くお勧めします。
食と身体のつながりについての具体的な実践内容は、noteで整体師の実体験とともに詳しく書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
まとめ
慢性炎症は、現代人が抱える多くの不調の根っこにある可能性があります。ファスティングがオートファジーを介して細胞レベルの炎症リセットに働きかける可能性は、研究の蓄積とともに注目が高まっています。整体師・オステオパシーの視点から見ると、内臓・筋膜・自律神経バランスという全体のつながりの中で、食と断食が身体に変化をもたらす仕組みは非常に奥深いものがあります。「食べないこと」を怖がるのではなく、身体の仕組みを知ったうえで、自分に合ったペースで向き合うことが大切です。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Mediterranean diet and its low-antigenic and anti-inflammatory properties on fibromyalgia: a systematic review(Clin Exp Rheumatol 2025) PubMed
- Dietary and Nutritional Interventions for the Management of Endometriosis(Nutrients 2024) PubMed
よくある質問
Q. ファスティングをすると炎症は本当に改善されるの?
A. ファスティング中にオートファジーが活性化し、損傷した細胞や炎症を引き起こすタンパク質が分解・除去されることで、慢性炎症が緩和される可能性が研究で示されています。ただし個人差があるため、身体の状態に合わせた判断が重要です。
Q. 断食中にオートファジーが起きるまでどのくらい時間がかかる?
A. 一般的には最後の食事から16〜24時間程度でオートファジーの活性化が始まるとされています。ただし活性化の程度は年齢・代謝・栄養状態によって異なり、一律に「何時間」と断言できるものではありません。
Q. 慢性疾患がある人がファスティングをしても大丈夫?
A. 慢性疾患がある場合は、必ず主治医に相談したうえで検討することが大前提です。断食が炎症抑制に働く可能性はありますが、疾患の種類・状態によっては禁忌となるケースもあるため、自己判断での実施はリスクを伴います。
鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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