健康診断で指摘された数値、閉経前後からじわりと変わってきた体型、なんとなく抜けない疲れ。「油はけっこう控えているのに」と感じている方は少なくありません。近年の大規模な調査が注目しているのは、油の「量」そのものよりも「質」、そしてそれを支える食物繊維との組み合わせです。この記事では、イタリアで行われたMoli-sani研究の報告を手がかりに、食事がなぜ身体の炎症環境や体組成に関わりうるのか、その仕組みを整体師の視点から整理します。
「油を減らしているのに数値が動かない」と感じるとき
健診の結果を見て、まず最初に手をつけるのが「油を減らすこと」という方はとても多いです。揚げ物を控え、炒め物の油を少なくし、ドレッシングをノンオイルに替える。努力の方向としては自然な発想です。
ただ、油をひとまとめに「減らすもの」として扱うと、身体にとって材料として必要な脂質まで一緒に減ってしまうことがあります。脂質は細胞膜の構成材料であり、ホルモンや胆汁の材料にもなり、脂溶性のビタミンを運ぶ役割も担っています。つまり「少なければ少ないほど良い」という単純な話ではなく、どの種類の脂質がどんな割合で入ってきているかという構成の問題が残るわけです。
この点について、イタリアで行われたMoli-sani研究では、飽和脂肪酸に対する一価不飽和脂肪酸の比率と、食物繊維の摂取量が高いほど、改善可能な心血管リスク因子の総合スコアが低下したと報告されています。ここで見られているのは「油を何グラム減らしたか」ではなく、脂質の質を表す比率と、食物繊維という別の要素の組み合わせです。油を減らすという一点だけに集中していると、この比率はあまり動かないことがあります。
施術の現場では、食事バランスの見直しを意識されている方でも「何を減らすか」の話が中心になっていて、「何を入れ替えるか」という視点が抜けている場面にしばしば出会います。私自身も、平日は植物中心の食事、週末はBBQや刺身も楽しむというゆるいスタイルに変えてから、痛風の発作が出にくくなってきた感覚や、血圧の数値が落ち着いてきた感覚があります(個人の体験です)。減らすより入れ替える、という発想の転換が、結果として続けやすさにつながったと感じています。
一価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比率が身体で意味すること
一価不飽和脂肪酸は、オリーブオイルやナッツ類、アボカドなどに多く含まれる脂肪酸です。一方の飽和脂肪酸は、動物性の脂や乳製品、加工食品に多く含まれます。どちらも身体にとって不要なものではありませんが、両者のバランスが身体の中で意味を持つと考えられています。
細胞膜という「膜の質」の話
脂肪酸は、摂ったあと燃料として使われるだけでなく、全身の細胞膜の材料としても組み込まれていきます。膜の脂肪酸構成が変わると、膜のやわらかさ(流動性)や、膜に埋まっている受容体・酵素の働きやすさが変わると考えられています。ホルモンの信号を受け取る窓口も、炎症に関わる物質を作り出す材料も、この膜の上にあります。
つまり脂質の質は、「血液検査の数値」という出口だけでなく、全身の細胞の土台そのものの質に関わってくる可能性があるということです。だからこそ、オリーブオイルを使った食事に切り替えるような地中海沿岸型の食習慣が、心血管リスクと食生活の関係を調べる研究で繰り返し取り上げられてきたのだと考えられます。
比率は「分子」と「分母」の両方から動く
比率という考え方の良いところは、アプローチが二通りあることです。
- 分子を増やす:一価不飽和脂肪酸を含む食品を、調理や味付けの中心に置き換えていく
- 分母を抑える:飽和脂肪酸が多く含まれる加工食品や脂身の頻度を見直す
- 両方を同時に:一方を他方に「入れ替える」形にすると、総量を増やさずに比率が動く
オステオパシーの内臓の視点からみると、脂質の消化には胆汁の流れと小腸の働きが深く関わります。胆嚢や十二指腸のあたりに動きの制限があると、脂質の消化そのものが負担になりやすい可能性があります。これまで診てきた範囲では、脂っこい食事のあとに右の肩や背中の張りを感じるという方が一定数おられ、食事内容と身体の感覚を一緒に伺うようにしています。
食物繊維が腸から全身の炎症環境に関わる仕組み
Moli-sani研究で脂質の質と並んで挙がっていたのが食物繊維です。油の話と繊維の話が同じ土俵に乗るのは、一見すると不思議かもしれません。ここには、いくつかのつながりが考えられています。
ひとつは腸内細菌です。食物繊維は人の消化酵素では分解しきれず、大腸の細菌によって発酵され、短鎖脂肪酸と呼ばれる物質が作られると考えられています。短鎖脂肪酸は大腸の粘膜のエネルギー源になり、腸のバリア機能や免疫のバランスに関わるとされています。腸の内側と身体の内側を隔てる壁の状態が、全身の炎症環境につながる入口になりうる、という考え方です。
もうひとつは胆汁酸との関係です。脂質を消化するために分泌された胆汁酸は、腸で再吸収されて再利用されますが、食物繊維はこの流れにも関わると考えられています。脂質の代謝と繊維の摂取が切り離せないのは、この循環があるからです。
そして整体師として見逃せないのが、腸が「動く臓器」であるという点です。便の量や性状が変わると、結腸の中身の重さや張りが変わります。内臓マニピュレーションの知見では、上行結腸の動きの制限は右の腎臓や肝臓に、下行結腸やS状結腸の制限は胃や骨盤内の臓器に影響が及びやすいとされています。小さな動きの制限でも、呼吸に合わせて一日に何万回と繰り返されれば、周囲の組織にとっては積み上がる負担になりうると考えられます。
腸は腸間膜という膜で背中側につながっているため、腸の張りの変化が腰のあたりの感覚として表に出てくることもあります。施術の現場では、お腹の張りが続いている方の腰や股関節まわりの硬さを一緒にみていくことがあります。食習慣と炎症、そして身体の硬さは、別々の話として切り離しにくいのです。
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閉経期・自己免疫と食習慣|整体師が身体をみるときの三つの軸
閉経後の女性の栄養に関する総説や、全身性エリテマトーデス(SLE)など自己免疫疾患と食事を扱った総説では、食習慣の見直しが体組成や炎症マーカーに影響しうると示されています。ここで言えるのはあくまで「影響しうる」という範囲までで、食事で病気をどうにかできるという話ではありません。ただ、食事が身体の状態に関わる因子のひとつとして検討されている、という事実は押さえておきたいところです。
閉経前後はホルモン環境の変化に伴い、同じ生活をしていても体組成や代謝の感覚が変わりやすい時期とされています。「昔と同じように食べているのに前と違う」という戸惑いには、理由があると考えられます。この時期に必要なのは、極端に削ることではなく、脂質の質と食物繊維のように構成を入れ替える方向の調整ではないかと、日々の施術のなかで感じています。
茨城県龍ケ崎市のすーさん夫婦の龍ケ崎整体院では、身体をみるときに三つの軸を意識しています。
- BODY(構造・内臓・頭蓋):骨格や筋膜のつながり、内臓の動き、頭蓋まわりの状態を確認します。痛いところも触りますが、痛いところだけでは終わりません。
- MIND(食事・自然療法):毎日の食事、睡眠、水分といった生活の土台を一緒に振り返ります。身体をつくる材料の話です。
- SPIRIT(全体性):症状をひとつの部位の問題に切り分けず、その方の生活全体の中でどう位置づくかを考えます。
食事の話を施術の場で伺うのは、食べ物で症状をどうにかするためではなく、関係していると考えられる要素もあわせて確認しておきたいからです。龍ケ崎やその周辺から来られる方とも、こうした日常の積み重ねの話をよくします。
なお、胸の痛み・息切れ・強いむくみ・急な体重の変化・発熱・しびれなどがある場合や、健診で指摘された状態が続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。服薬中の方が食事内容を大きく変えるときも、必ず主治医に確認をお願いします。
まとめ
健診の数値が気になるとき、「油を減らす」だけでは比率が動きにくいことがあります。Moli-sani研究では、飽和脂肪酸に対する一価不飽和脂肪酸の比率と食物繊維の摂取量が高いほど、改善可能な心血管リスク因子の総合スコアが低下したと報告されています。削るより入れ替える。そして脂質と食物繊維をセットで考える。この視点は、閉経期の身体の変化と向き合うときにも手がかりになると感じています。判断に迷うときは、医療機関と相談しながら進めてください。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Nutrition in Menopausal Women: A Narrative Review(Nutrients 2021) PubMed
- Diet and Systemic Lupus Erythematosus (SLE): From Supplementation to Intervention(Int J Environ Res Public Health 2022) PubMed
- Incremental monounsaturated to saturated fat ratio and fibre consumption is associated with a reduction in a composite score of modifiable cardiovascular risk factors: Prospective results from the Moli-sani study(Eur J Clin Nutr 2022) PubMed
よくある質問
Q. 油は全部控えたほうがいいのでしょうか?
A. 研究で注目されているのは総量より構成比です。飽和脂肪酸に対する一価不飽和脂肪酸の比率が高いほど心血管リスク因子スコアが低かったと報告されており、減らすより入れ替える発想が参考になります。
Q. 食物繊維は脂質の質と関係があるのですか?
A. Moli-sani研究では脂質の比率と食物繊維の摂取量がともに高いほどリスク因子スコアが低い傾向が報告されています。腸内環境を介した炎症環境への関与が背景として議論されています。
Q. 閉経前後に体重や数値が変わりやすいのはなぜですか?
A. ホルモン環境の変化に伴い体組成や脂質代謝が変わりやすくなるためと考えられています。総説では食習慣の見直しが体組成や炎症マーカーに影響しうると示されており、食事の整え方が一つの手がかりになります。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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