健康診断で肝機能の数値を指摘され、「お酒もそんなに飲んでいないのに」と首をかしげた経験はありませんか。近年、栄養学の分野で注目されているのが「コリン」という栄養素です。1998年に必須栄養素と認められたこの成分は、細胞膜の構成・脂質代謝・神経伝達物質の生成という、身体の土台に関わる働きを担っています。本記事では、コリンと肝臓、そして腸とのつながりを、整体師の視点からメカニズムとして読み解いていきます。
肝機能の数値が気になる人が見落としがちな「コリン」という栄養素
肝機能の数値というと、多くの方がまずお酒の量を思い浮かべます。ところが施術の現場でお話を伺っていると、「ほとんど飲まないのに数値が動いた」という方が一定数いらっしゃいます。そこで視野に入れておきたいのが、食事から摂る栄養の偏りという切り口です。
コリンは、1998年に必須栄養素として位置づけられた比較的新しい栄養素です。体内でもわずかに合成されますが、それだけでは足りず、食事から補う必要があるとされています。研究では、コリンが細胞膜の構成や脂質代謝、神経伝達物質の生成に関わり、不足すると肝臓の状態に影響する可能性が指摘されています。
どんな食品に含まれているのか
コリンが多い食品としてよく挙げられるのが卵です。卵黄にはコリンを含むリン脂質が豊富に含まれます。ほかにレバーを含む肉類、魚、大豆製品などにも含まれています。一方で、報告のなかには「多くの人で摂取量が目安を下回っている」というものもあり、意識しなければ不足しやすい栄養素だと考えられます。
- 卵(とくに卵黄)
- 肉類・レバー
- 魚介類
- 大豆製品
ここで大切なのは、「では卵を何個食べればいいのか」という発想に一足飛びに行かないことです。コリンだけを取り出して増やせば数値が動く、という単純な話ではありません。なお、だるさが続く・皮膚や白目が黄色い・強い腹痛があるなど気になる症状がある場合や、健診で再検査を勧められた場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
コリンが細胞膜・脂質代謝・神経伝達を支える仕組み
コリンの働きは、大きく三つの方向に分けて考えると整理しやすくなります。
①細胞膜リン脂質の材料になる
コリンは、ホスファチジルコリンという細胞膜リン脂質の材料になります。細胞膜は細胞を包む「袋」であると同時に、物質の出入りを管理する門でもあります。身体には数十兆の細胞があるとされ、その一つひとつの膜の質が、材料の供給に左右されるという構図です。オステオパシーで組織の「動きやすさ」を触れて確かめるとき、そこにあるのは筋肉や骨だけでなく、細胞レベルの状態も含んだ総体だと私は考えています。
②脂質代謝と肝臓の関係
肝臓は、体内に入ってきた脂質を処理し、必要な場所へ送り出す中継地点です。この「送り出す」工程で、脂質を包んで血中に運び出す粒子の外殻にホスファチジルコリンが使われます。つまりコリンが足りないと、肝臓に取り込んだ脂質を外へ運び出しにくくなる、という筋道が考えられます。コリン不足と肝臓の状態が結びつけて語られる背景には、こうした脂質代謝の仕組みがあります。
③アセチルコリンという神経伝達物質
コリンは、アセチルコリンという神経伝達物質の材料でもあります。アセチルコリンは筋肉を動かす指令や、副交感神経の働きに関わる物質として知られています。食べたものが神経の材料になる——この事実は、「身体の構造」と「食」を別々のものとして扱えない理由の一つです。
また、妊娠期の栄養という文脈でも報告があり、妊娠期のコリンが母体の健康や胎児の発育を支える役割について研究が進められています。妊娠中・授乳中の食事内容については、必ず産科の主治医や管理栄養士に確認しながら進めてください。
腸と肝臓をつなぐ経路から読み解く、コリン不足が起きる背景
コリン不足を「食べる量が少ないから」だけで説明すると、見落としが出ます。ここで登場するのが腸肝軸(ちょうかんじく)という考え方です。
腸で吸収された栄養は、門脈という太い血管を通って、まず肝臓に運ばれます。心臓へ行く前に肝臓を経由する、という特別なルートです。したがって腸の状態は、そのまま肝臓に届く「荷物の中身」を左右します。腸の吸収機能が落ちていれば、いくら食卓にコリンを含む食品が並んでいても、肝臓に届く量は変わってくる可能性があります。
この腸と肝臓のつながりについては、研究者が動物モデルを使って調べています。マウスを用いた研究のなかには、腸の機能不全が肝臓のコリン不足につながったという報告があり、腸側の問題が肝臓側の栄養状態に波及しうる経路が検討されています。これはあくまで動物実験の段階の話で、人でそのまま同じことが起こると言い切れるものではありません。ただ、「腸と肝臓は一本の線でつながっている」という見方が研究の場でも追いかけられている、という事実は知っておく価値があります。
さらに、腸内細菌がコリンを別の物質に代謝することも知られており、腸内環境そのものが体内で使えるコリンの量に関わってくると考えられています。腸・肝臓・コリンは、三角形のような関係で互いに影響し合っているわけです。
内臓を扱う手技の視点で言えば、肝臓は横隔膜のすぐ下、右の肋骨の内側に収まっており、十二指腸や右の大腸、腎臓と膜でつながっています。呼吸のたびに動き、周囲の臓器と位置を分け合っている臓器です。これまで診てきた範囲では、右の肋骨まわりの動きが硬い方で、食後の重だるさや右肩の違和感を同時に訴えられることがあります。因果関係を断定できる話ではありませんが、腹部の動きと食の内容をセットで伺うようにしています。
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整体師が身体を診るときに「食」の文脈を外さない理由
すーさん夫婦の龍ケ崎整体院では、施術の前に食事の傾向を伺うことがあります。理由はシンプルで、身体をつくる材料が食事から来ている以上、構造だけを見ていても説明のつかない場面があるからです。
私自身、平日はほぼ植物中心、週末はBBQや刺身も食べるというゆるいスタイルに変えてから、痛風発作が起きなくなってきた感覚があり、血圧の数値も落ち着いてきたように感じています。これは個人の体験であり、同じ結果を保証するものではありません。ただ、自分の身体で起きた変化は、食を軽く扱えないと考えるきっかけになりました。
施術では、BODY(構造・内臓・頭蓋)、MIND(食事・自然療法)、SPIRIT(全体性)という三つの軸で身体をみています。腹部に手を当てて動きを確かめるとき、そこに現れているのは筋肉の緊張だけではなく、日々の食事や生活の積み重ねでもある、という前提です。手技で腹部の動きを整えることはできても、毎日の食卓の中身を置き換えることはできません。だからこそ、施術と食の話を並べてお伝えするようにしています。
茨城・龍ケ崎という地域柄、車移動が中心で外食や中食が増えやすいという声もよく耳にします。忙しい日が続くと、卵や肉、魚といったコリンを含む食品よりも、手早く済ませられる炭水化物中心の食事に傾きやすくなります。コリンという言葉を一つ知っておくだけでも、「今週、卵を食べたかな」と食卓を振り返る手がかりになるはずです。
なお、施術は医療行為ではありません。肝機能の数値そのものについては、必ず主治医の判断を仰いでください。
まとめ
コリンは1998年に必須栄養素と認められ、細胞膜リン脂質の材料、脂質代謝、そしてアセチルコリンの原料という三つの役割を担っています。不足が肝臓の状態に影響する可能性が指摘され、腸肝軸という経路からも研究が進んでいます。卵や肉類を含む日々の食事を見直すことは、特別なサプリメントに頼る前にできる現実的な一歩です。気になる数値があるときは、食を振り返りつつ、医療機関での確認も並行して進めてください。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Choline: an essential nutrient for public health(Nutr Rev 2009) PubMed
- Choline in Pregnancy and Lactation: Essential Knowledge for Clinical Practice(Nutrients 2025) PubMed
- Intestinal Atp8b1 dysfunction causes hepatic choline deficiency and steatohepatitis(Nat Commun 2023) PubMed
- An improved mouse model that rapidly develops fibrosis in non-alcoholic steatohepatitis(Int J Exp Pathol 2013) PubMed
よくある質問
Q. コリンはどんな食品に多く含まれていますか?
A. 卵や肉類、レバーなどに比較的多く含まれるとされています。植物性では大豆製品なども知られています。具体的な食品の組み合わせ方はnoteで整体師の実体験とともに書いています。
Q. コリンの摂取量の目安はどのくらいですか?
A. 国や機関によって目安値は異なりますが、複数の報告で「多くの人が目安を下回っている」と指摘されています。数値だけを追うより、日々の食事の傾向を見直す視点が現実的です。
Q. 妊娠中にコリンが注目されるのはなぜですか?
A. コリンは細胞膜の材料や神経伝達物質の原料となるため、妊娠期の健康や胎児の発育を支える役割について報告があります。妊娠中の栄養は必ず主治医や管理栄養士にご相談ください。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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