「後頭部が締め付けられるように痛い」「首の付け根をほぐしても、すぐ元に戻る」——そう感じているなら、それは筋肉だけの問題ではないかもしれません。整体師の視点から見ると、後頭部の頭痛と首の付け根のこりは、筋膜・後頭下筋・頭蓋骨の底面が複雑に連動して起きている症状です。揉んで一時的に楽になっても、翌日には元通り——その「すぐ戻る」感覚には、理由があると考えられます。この記事では、なぜその場所が痛くなるのか、仕組みの面からわかりやすく解説します。
「揉んでもすぐ戻る」後頭部の頭痛——それが首の付け根で起きていること
後頭部の頭痛と首の付け根のこりは、多くの方が「肩こりの延長」として捉えがちです。しかし施術の現場で感じるのは、この二つが単純な筋肉疲労ではなく、もう少し深いところで絡み合っているケースが少なくないということです。
「首の付け根」はどこを指しているのか
首の付け根——解剖学的に言えば、頭蓋骨の底面(頭蓋底)と頸椎の上位(C1・C2あたり)が接する領域です。ここには後頭下筋(こうとうかきん)と呼ばれる、非常に小さな筋肉の集まりがあります。大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋の4つで構成され、頭の微細な動きを調整する役割を担っています。
この筋群は、一般的なマッサージでは届きにくい深部に位置しています。表面の僧帽筋や肩甲挙筋をいくら揉んでも、後頭下筋の緊張が残ったままであれば、症状がすぐ戻るのはある意味で自然なことと言えるかもしれません。
なぜ後頭下筋はこわばりやすいのか
後頭下筋がこわばりやすい背景として、デスクワークやスマートフォンの長時間使用による「頭部の前方位」が挙げられることがあります。頭が前に出た姿勢では、頭蓋底と頸椎の上位が圧縮方向に近づき、後頭下筋が常に収縮した状態を強いられる可能性があります。
また、後頭下筋の周辺には大後頭神経(だいこうとうしんけい)が走行しています。この神経は後頭部の皮膚感覚を担っており、周囲の筋肉が緊張・圧迫すると、後頭部から頭頂部にかけての鈍痛や締め付け感として現れることがあります。これは緊張型頭痛のメカニズムの一部として、広く知られている経路です。
当院(茨城・龍ケ崎)の施術の現場でも、後頭部の頭痛を訴える患者さんの多くが、後頭下筋の周辺に顕著な圧痛や硬さを持っていることが多い印象があります。ただしその硬さの「原因」が後頭下筋そのものにあるのか、別の場所からの連鎖なのかは、個々によって異なります。
後頭下筋と筋膜トリガーポイント——後頭部に頭痛を飛ばす仕組みとは
後頭部の頭痛と首の付け根の関係を語るうえで、「筋膜トリガーポイント」という概念は外せません。トリガーポイントとは、筋肉や筋膜の中に生じる過敏な圧痛点のことで、その場所を押すと離れた部位に「関連痛(放散痛)」を起こすことがあるとされています。
首の付け根から後頭部へ「飛ぶ」痛みの経路
後頭下筋群、特に大後頭直筋や上頭斜筋にトリガーポイントが形成されると、後頭部・眼の奥・こめかみにかけての痛みとして感じられることがあると報告されています。これが「首の付け根は張っているのに、痛いのは頭の後ろ」という、多くの方が経験する感覚の背景の一つである可能性があります。
研究では、首・肩周辺の筋膜に生じたトリガーポイントが頭痛の誘発・維持に関与しているという報告があり、筋膜へのケアが慢性的な首こりや頭痛の改善につながる可能性があるとされています。また、筋膜トリガーポイントへのアプローチが、痛みや可動域の制限を改善する可能性を示した研究も存在しています。ただし効果には個人差があり、すべての方に同様の変化が起きるとは限りません。
筋膜はつながっている——表層だけでは届かない理由
筋膜(きんまく)とは、筋肉を包む膜状の結合組織です。Steccoらの研究では、この筋膜が全身を連続したネットワークとして覆っていることが示されており、ある部位の張力が離れた部位にまで伝わる可能性があると考えられています。
後頭部から頸部にかけての筋膜は、肩甲骨周辺・背部の筋膜とも連続しています。つまり、デスクワークで丸まった背中や、緊張した肩の筋膜の張力が、首の付け根・後頭下筋の周辺にまで影響を及ぼしている可能性があります。表層の僧帽筋だけをほぐしても「すぐ戻る」のは、こうした筋膜の連続性による張力が残ったままだからかもしれません。
この観点からいえば、首の付け根の痛みだけを局所的に触れることで終わるのではなく、なぜその場所に張力が集まっているのかという「上流」を見ることが、根本的なアプローチに近づくための視点になり得ます。
整体師・オステオパシーの目線で見ると「頭蓋の底」と「内臓の緊張」まで関係している
ここからは、整体師・オステオパシーの学習者としての視点を交えながら、少し踏み込んだ話をします。オステオパシーの専門校での学びを通じて気づいたのは、首の付け根の問題が「首だけの問題」として完結していないケースが多いということです。
頭蓋底の緊張と自律神経への影響
頭蓋底(ずがいてい)には、脳神経が通過する複数の孔(あな)があります。迷走神経もここを通り、内臓の機能に広く関与しています。後頭下筋の慢性的な緊張が頭蓋底の骨や膜系に張力を与え続けると、頭蓋内の硬膜(脳や脊髄を包む膜)の緊張状態にも影響する可能性があると、オステオパシーの臨床理論では考えられています。
こうした頭蓋底への慢性的な負荷は、首こりと自律神経のバランスにも関係する可能性があります。「後頭部が重くなると、なんとなく気分も沈む」「頭痛が続くと胃腸の調子も落ちる」という経験をお持ちの方は、こうした神経系・膜系の連動が背景にある可能性があります(ただしこれは臨床上の仮説であり、因果関係として断定できるものではありません)。
横隔膜・内臓の緊張が首に波及する経路
オステオパシーの視点では、内臓の緊張や可動性の低下が、筋膜を通じて骨格系に影響を及ぼすことがあると考えられています。バラルらの内臓マニピュレーションの理論では、内臓を包む膜(漿膜・腹膜など)の張力が、筋膜の連続性を通じて遠隔部位の骨格構造に影響する可能性が述べられています。
たとえば横隔膜は、頸椎(C3〜C5)からの横隔神経によって支配されており、横隔膜の緊張や可動性の低下は首の付け根の周辺にも張力的な影響を与える経路がある可能性があります。当院の臨床経験では、後頭部の頭痛と首こりを訴える患者さんの中に、呼吸が浅く横隔膜の動きが小さい方が見られることがあります。ただしこれが直接的な原因であるとは断言できず、個々の評価が必要です。
こうした「頭蓋・筋膜・内臓の連動」という視点は、痛みの場所だけを見るのではなく、身体全体をひとつのつながりとして評価するオステオパシー的なアプローチの根幹でもあります。
身体を一つのつながりとして見るこの視点については、noteでより詳しく解説しています。
→ 詳しくはこちら(note)
後頭部の頭痛と首の付け根を根本から変えるために知っておくべき視点
ここまで読んでいただいた方には、「なぜ揉んでも戻るのか」の輪郭が少し見えてきたのではないでしょうか。最後に、整体師として患者さんにお伝えしたい視点をまとめます。
「一次制限」はどこにあるのかを見極める
オステオパシーの病変連鎖の考え方では、症状として現れている場所が必ずしも「最初に問題が生じた場所」ではないとされています。後頭部の頭痛や首の付け根のこりが「結果」だとすれば、その「原因(一次制限)」は、横隔膜・肋椎関節・胸椎の可動性・さらには内臓の緊張など、離れた場所にある可能性があります。
これは、「後頭部を触らない」ということではありません。後頭部・首の付け根も丁寧に評価・アプローチしながら、同時に身体全体の連動を確認していく——その視点の広さが、症状が「すぐ戻る」サイクルを変えるために重要だと考えられます。
日常の姿勢・呼吸・生活習慣との関係
施術でいったん整えても、日常の姿勢や呼吸のパターンが変わらなければ、同じ張力のパターンが繰り返される可能性があります。特に長時間のデスクワーク・スマートフォン使用・浅い胸式呼吸は、後頭下筋と首の付け根に慢性的な負荷をかけやすいライフスタイルの特徴として挙げられることがあります。
また、食事や腸の状態が自律神経のバランスを通じて筋緊張に影響する可能性も、整体師として気になる視点の一つです。食と身体のつながりについては、noteで整体師の実体験とともに詳しく書いています。
→ 詳しくはこちら(note)
こんな場合は医療機関へ
後頭部の頭痛の中には、整体やセルフケアでのアプローチが適さないケースも存在します。突然の激しい頭痛(「今まで経験したことがない頭痛」)・発熱を伴う頭痛・手足のしびれや視覚異常を伴う頭痛・痛みが日に日に強くなる場合などは、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。こうした症状が続く場合や強い痛みがある場合は、脳神経外科・神経内科への相談を優先することを強くお勧めします。
龍ケ崎や茨城近隣の方から、「何年もこの頭痛と付き合っている」というご相談をいただくことがあります。長期間続く慢性的な頭痛でも、まず医療機関で器質的な原因を除外しておくことが、安心して整体的なアプローチを受けるための前提になります。
まとめ
後頭部の頭痛と首の付け根の問題は、後頭下筋の深部の緊張・筋膜トリガーポイントによる関連痛・頭蓋底への連動・さらには横隔膜や内臓の膜系まで含んだ複雑な連鎖として現れている可能性があります。「揉んでもすぐ戻る」のには理由があると考えられます。痛みの場所だけでなく、身体全体のつながりを見る視点が、根本的な変化につながる第一歩になるかもしれません。個人差がありますので、気になる症状が続く場合はぜひ専門家にご相談ください。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Effectiveness of Myofascial Release Compared to Manual Lymphatic Drainage in Reducing Post-Treatment Shoulder Pain and Stiffness Among Patients Who Underwent Breast Cancer Surgery and Adjuvant Radiotherapy: Randomised controlled trial(Sultan Qaboos Univ Med J 2025) PubMed
- Myofascial triggerpoint release (MTR) for treating chronic shoulder pain: A novel approach(J Bodyw Mov Ther 2016) PubMed
よくある質問
Q. 後頭部の頭痛と首の付け根のこりは関係していますか?
A. 深い関係があります。首の付け根にある後頭下筋群にトリガーポイント(筋膜の硬結)が生じると、後頭部から頭頂にかけての頭痛として「関連痛」が飛ぶことが報告されています。首のこりが先か頭痛が先か、という悩みはこの仕組みで説明できます。
Q. 首の付け根を自分でほぐしても頭痛がすぐ戻るのはなぜですか?
A. 表面の筋肉をほぐすだけでは、筋膜の深層にあるトリガーポイントや、頭蓋底・自律神経の緊張パターンにはアプローチできないためです。原因が「筋膜・頭蓋・姿勢の連動」にある場合は、表面的なマッサージだけでは根本が変わりにくいとされています。
Q. 後頭部の頭痛は整体で改善できますか?
A. 筋膜へのアプローチや頭蓋・頸椎の連動を評価する整体・オステオパシーは、後頭部の頭痛改善に有効である可能性が示されています。ただし片頭痛や器質的疾患が疑われる場合は、まず医療機関での診断が優先されます。
鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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