お腹の傷あとがつっぱる|瘢痕と癒着の徒手療法

オステオパシー
この記事は個人の体験談と参考書籍をもとにした健康情報です。医療的な診断・治療に代わるものではありません。持病のある方・服薬中の方は必ず主治医にご相談ください。

手術から半年、一年と経っても、お腹の傷のあたりがつっぱる、引きつれる、押すと鈍く痛む——そんな感覚が残る方は少なくありません。皮膚の傷は閉じていても、その下では皮膚・皮下組織・筋膜・腹膜・内臓が、新しい線維でつながり直している最中です。ここでは瘢痕(はんこん=傷あとの組織)と癒着がなぜ動きにくさや痛みにつながるのか、そして徒手的なアプローチに関する研究段階の知見を、オステオパシーの視点から整理します。

傷は閉じたのに、お腹がつっぱる・鈍く痛むのはなぜか

術後の方から聞く言葉には、共通した表現があります。「伸びをすると引っかかる」「くしゃみで傷の奥に響く」「服のゴムが当たると気持ち悪い」「傷から少し離れたところが重だるい」。傷そのものより、その周囲や少し離れた場所の感覚を訴える方が多いのが特徴です。

理由の一つは、修復された組織がもとの組織とまったく同じ性質には戻らない点にあります。瘢痕はコラーゲン線維が主体で、もとの皮膚や筋膜が持っていた方向性のある伸び縮みとは、しなやかさの質が異なります。そこに周囲の組織が引き寄せられると、動くたびに張力がかかる一点ができあがります。

もう一つは筋膜の連続性です。腹部の筋膜は、胸郭・骨盤・背中へと連続する布のようにつながっています。布の一点をつまんで縫い留めれば、しわは離れた場所まで走ります。お腹の傷あとの痛みやケアを考えるとき、傷の直上だけを見ていても説明がつかない感覚が残るのは、このためだと考えられます。

施術の現場では、帝王切開の傷あとのつっぱりを訴える方が、同時に腰の張りや呼吸の浅さを感じているケースに出会うことがあります。これは医学的な因果として断定できるものではなく、これまで診てきた範囲で感じている傾向です。

瘢痕と癒着が生まれる仕組み|皮膚から腹膜・内臓までの層をつなぐ線維

組織の修復は、おおまかに次の流れで進むとされています。

  • 炎症期:出血が止まり、免疫細胞が集まる数日間
  • 増殖期:線維芽細胞がコラーゲンを産生し、隙間を埋めていく数週間
  • リモデリング期:線維の向きや密度が並び替わる、数か月から年単位の期間

このリモデリング期が長いことが、術後しばらく経ってから「つっぱりが気になり出す」現象の背景にあると考えられます。

お腹は「滑る膜」でできている

腹腔のなかでは、内臓が漿膜(しょうまく)という二重の膜に包まれ、その間の液体を介して滑り合っています。関節の軟骨と滑液に近い構造です。手術・感染・炎症のあとは、この漿液の量や粘りが変わり、本来は滑っていた面どうしが線維でつながることがあります。これが腹部の癒着です。

内臓には二種類の動きがあるとオステオパシーでは考えます。一つは横隔膜や体の動きによって受動的に動かされる可動力。横隔膜は一日におよそ2万回上下し、そのたびに内臓が押し動かされます。もう一つは臓器がもつ微細な固有運動です。癒着はこの両方の自由度を削ります。ごくわずかな制限でも、一日2万回分積み重なると、周囲の組織にかかる張力は無視できない量になります。

帝王切開では子宮・膀胱・腹膜が近接する層で操作が行われるため、皮膚の傷あとと深部の状態が必ずしも一致しないことも知られています。表面はきれいでも奥のつっぱり感が残る、という訴えはここに関係している可能性があります。

腹部の癒着に徒手療法を行った研究が示すこと|軟部組織モビライゼーションと複合的アプローチ

では、手で触れるアプローチに意味はあるのでしょうか。研究では、腹部の癒着に伴う痛みや可動性の制限に対して軟部組織モビライゼーション(軟らかい組織を手で動かしていく徒手的な施術)を行ったところ、痛みの感じ方や瘢痕部の動きやすさに変化がみられたと報告されています。また、瘢痕に対するマニュアルセラピーは、単一の手法を繰り返すより複数の手法を組み合わせたアプローチのほうが有用とされています。

ここから読み取れるのは、次のような方向性です。

  1. 瘢痕や癒着まわりの組織は、術後長く経っていても「動きの面で変化しうる対象」として扱われている
  2. 皮膚だけ、筋膜だけ、というより、層ごとに異なる触れ方を重ねる考え方が支持されつつある
  3. いずれも研究段階の知見であり、誰にでも同じ変化が起こることを示すものではない

整体師目線で補足すると、瘢痕は「硬い一点」ではなく「動きの方向が偏った領域」として触れたほうが実態に近いと感じています。上下には伸びるのに左右には動かない、浅い層は動くのに深い層が追従しない——そうした方向の偏りを一つずつ確かめていく作業が、複数手法を組み合わせるという意味だと理解しています。

なお、傷あとが赤く腫れる、熱を持つ、しびれが強まる、発熱を伴う、痛みが急に強くなるといった変化がある場合や、こうした症状が続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。術後の経過についての判断は主治医に委ねるのが前提です。

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オステオパシーは術後のお腹をどう診るか|横隔膜・骨盤・呼吸まで含めた全体性の視点

内臓オステオパシーの考え方では、お腹を一枚の平面ではなく、横隔膜という天井と骨盤底という床に挟まれた圧力の部屋として捉えます。腹部の癒着による痛みや張りを確認するときも、傷あとだけを触って終わりにはしません。痛むところも触りますが、そこだけでは終わらない、という表現が近いです。

確認していく主なポイント

  • 呼吸のときに、肋骨の下部と腹壁がどの方向に動いているか
  • 瘢痕が皮膚・皮下・筋膜のどの層で動きにくさを示しているか
  • 骨盤(仙腸関節・尾骨まわり)や腰椎に、張力の偏りが現れていないか
  • 姿勢を変えたとき、つっぱり感の出方がどう変わるか

横隔膜の動きが浅いままだと内臓の受動的な動きも小さくなり、瘢痕まわりの組織が一定の張力にさらされ続けやすくなります。逆に、お腹をかばう姿勢が続くことで呼吸が浅くなる流れも考えられます。どちらが先かを決めつけず、両方を行き来しながら確認していくのが、この視点の特徴です。

茨城・龍ケ崎ですーさん夫婦の龍ケ崎整体院を開いてから、産後や術後のお腹の相談を受ける機会が増えました。日々の施術のなかで感じているのは、強い圧で瘢痕を押し込むより、組織が動ける方向を探しながらゆっくり時間をかけて触れていくほうが、体が反応を返してくれる場面が多いということです。これは私たちが感じている傾向であり、すべての方に当てはまる医学的事実ではありません。施術は所要45分前後で、痛みの強い部位への圧は加減しながら進めています。

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お腹の傷あとのつっぱりは、「気のせい」でも「もう変わらないもの」でもなく、皮膚から腹膜・内臓までの層が新しくつながり直した結果として説明しうる現象です。研究段階ではありますが、軟部組織モビライゼーションをはじめとする徒手的アプローチで、痛みの感じ方や瘢痕部の動きに変化がみられたという報告もあります。気になる感覚が続くときは、まず主治医に相談したうえで、体の全体像から見直す選択肢も検討してみてください。

免責事項:本記事は個人の体験談および一般的な健康情報の提供を目的としており、医療診断・治療に代わるものではありません。同様の効果を保証するものではありません。持病のある方・服薬中の方は生活習慣の変更前に必ず主治医にご相談ください。

参考文献

本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。

  1. Effect of soft tissue mobilization techniques on adhesion-related pain and function in the abdomen: A systematic review(J Bodyw Mov Ther 2019) PubMed
  2. Soft tissue mobilization techniques in treating chronic abdominal scar tissue: A quasi-experimental single subject design(J Bodyw Mov Ther 2019) PubMed
  3. Effectiveness of various methods of manual scar therapy(Skin Res Technol 2023) PubMed

よくある質問

Q. 手術から何年も経った傷あとでも、手技によるケアの対象になりますか?

A. 瘢痕組織は年単位でゆっくり再構築が続くとされ、数年後でも組織の性状は一定ではありません。研究でも経過の長い瘢痕への徒手的アプローチが検討されており、期間だけで判断せず現在の動きやすさを丁寧に確認します。

Q. 帝王切開の傷あとのつっぱりが、腰痛や下腹部の重さと関係することはありますか?

A. 腹部の筋膜は骨盤や腰背部と連続しているため、瘢痕部の動きにくさが周囲の張力バランスに影響する可能性が指摘されています。お腹だけでなく骨盤や呼吸の状態も含めて全体を確認していきます。

Q. 傷あとへの徒手療法は痛みを感じますか?痛い場所は触らないほうがよいのでしょうか?

A. 痛むところだけで終わらせず、痛くない周囲の組織も触れていくのが基本の考え方です。瘢痕部そのものにも状態を確認しながら触れますが、強い痛みを我慢して押し込むような方法はとりません。

鈴木大樹

鈴木大樹(すずき だいき)

柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了

茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。

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