手術の傷あとが痛む・突っ張る|瘢痕と筋膜の話

オステオパシー
この記事は個人の体験談と参考書籍をもとにした健康情報です。医療的な診断・治療に代わるものではありません。持病のある方・服薬中の方は必ず主治医にご相談ください。

開腹手術や帝王切開から数ヶ月、数年が経っても、「傷あとの周りがつっぱる」「体を反らしにくい」「天気や疲れで疼く」——そんな声は少なくありません。皮膚の表面は閉じていても、その下では組織の層同士が滑りにくくなっていることがあります。この記事では、瘢痕と癒着が痛みや動かしにくさにつながると考えられる仕組みと、軟部組織モビライゼーションに関する報告を、整体師の視点から整理します。

傷あとは閉じたのに、お腹の突っ張りと痛みが続くのはなぜか

手術の創部は、数週間で表面が閉じ、数ヶ月かけて瘢痕(はんこん=傷が整えることがあります後に残る線維組織)として落ち着いていきます。ところが「見た目は落ち着いているのに、感覚としては残っている」というケースがあります。

よく聞かれる訴えを挙げると、次のようなものです。

  • お腹を伸ばす姿勢(上を向いて寝る、背伸び、反らす)でつっぱる
  • 傷あとの周囲だけ感覚が鈍い、あるいは逆に触れると過敏
  • 咳・くしゃみ・笑ったときに引きつれる
  • 長時間座ったあと、立ち上がりで腰からお腹にかけて重い
  • 帝王切開の傷あとの突っ張りが、下腹部の冷えや張り感と一緒に続く

皮膚が閉じることと、皮膚の下にある層が元どおりに滑ることは、同じではありません。開腹手術の後遺症としてのケアを考えるとき、ここが出発点になります。皮下組織、浅い筋膜、腹直筋とその鞘、腹横筋、そして腹膜——腹壁はミルフィーユのように層が重なった構造で、それぞれの層が互いに少しずつずれながら動くことで、お腹は伸びたり縮んだりしています。

この腹壁の筋膜のすべりが制限されると、動きそのものが減るだけでなく、周囲の組織が引っ張られて張力が偏ります。施術の現場では、傷あとそのものより、傷あとから離れた脇腹や鼠径部、肋骨の下あたりに違和感を訴える方に出会うことがあります。もちろんこれは医学的な断定ではなく、これまで診てきた範囲で感じている傾向です。

なお、発熱をともなう痛み、急に強くなる痛み、しびれ、傷あとの腫れや赤みがある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

瘢痕・癒着が痛みと可動域制限をつくる仕組み——皮膚から腹膜までの層のすべり

瘢痕組織は、もとの皮膚や筋膜と同じ性質ではありません。コラーゲン線維の並び方が不規則で、伸び縮みの余裕が少ない組織です。そのため、同じ量だけ皮膚を伸ばそうとしても、瘢痕のある部分だけが「硬い帯」のように残りやすくなります。

すべるはずの膜が、くっつくとどうなるか

お腹の中では、腹膜という漿膜(しょうまく)が内臓の表面と腹壁の内側をおおっています。二枚の膜が少量の液体を挟んで滑り合う構造で、関節の軟骨と滑液の関係に似ています。手術や感染、炎症のあとではこの液体の量や粘り気が変化し、膜同士が部分的にくっつく——いわゆる瘢痕・癒着が起こることがあると考えられています。

層のすべりが落ちると、身体は次のような反応を見せます。

  1. 可動域の制限:伸展(反らす)や側屈で、硬い部分が先に突っ張って動きが止まる
  2. 張力の迂回:動きにくい場所をかばい、腰椎や胸郭、骨盤が余分に動く
  3. 感覚の変化:筋膜には多くの感覚受容器があるとされ、滑りの異常が痛み感覚の変化に関わる可能性が指摘されています
  4. 呼吸との連動の低下:横隔膜は一日に何万回と動き、そのたび腹腔内の臓器や膜が受動的に押し動かされています。腹壁の一部が動かないと、この受動的な動きも偏ります

術後の可動域制限が「お腹の問題」で終わらないのは、このためです。腹壁の筋膜は胸郭や骨盤、さらに背面の筋膜へと連続しているため、局所の硬さが離れた部位の張力として現れることがあります。

軟部組織モビライゼーションで何が変わったのか——痛みの閾値と瘢痕の動きに関する報告

では、こうした瘢痕に手で触れることに意味があるのでしょうか。

研究では、腹部手術後の慢性的な痛みや可動域制限に対して軟部組織モビライゼーション(皮膚・皮下組織・筋膜といった軟部組織をゆっくり動かし、層のすべりを促す手技)を行ったところ、痛みの閾値(どのくらいの刺激で痛いと感じるかの境目)や瘢痕そのものの動きに変化がみられたと報告されています。つまり「硬さは触って確かめるしかない主観」ではなく、測定できる指標として変化が記録されたという点が、この報告の意味するところです。

また、瘢痕に対する手技療法は、ひとつの方法に頼るのではなく複数の技法を組み合わせたアプローチが有用とされ、癒着や拘縮による動かしにくさ、さらには見た目に関する悩みへの配慮にもつながる可能性が示されています。

読むときに気をつけたいこと

  • 報告は「変化がみられた」という内容で、誰にでも同じ結果が出るという話ではありません
  • 痛みの背景は人によって異なり、瘢痕だけが理由とは限りません
  • 術後の経過・合併症の有無は主治医の判断が前提になります

それでも、「もう傷あとは閉じているのだから、残っている感覚は気のせい」と言われてきた方にとって、組織の滑りという切り口が研究の対象になっていること自体が、ひとつの手がかりになるのではないかと感じています。

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傷あとだけを見ない——オステオパシー目線で全体性から術後の身体を読み解く

すーさん夫婦の龍ケ崎整体院(茨城県龍ケ崎市)では、術後の張り感を相談される際、傷あとの周囲だけでなく、呼吸にともなう胸郭と骨盤の動き、腰椎の反り、股関節の伸展などを一緒に確認します。「痛いところだけでは終わらない」という見方で、痛くないところも触れていきます。

オステオパシーでは、内臓やその周囲の膜も「動く組織」として扱います。横隔膜が下がれば肝臓や胃、腸は押し動かされ、膜を介して腹壁ともつながっています。手術の後にこの連動が偏ると、腹壁の筋膜のすべりが戻りにくくなることがある——そう考えると、傷あとへの手技は「傷を触る」というより「身体全体の動きの中で、動きを再開させる糸口を探す」作業に近くなります。

日々の施術のなかで感じているのは、次のような傾向です(医学的な結論ではなく、これまで診てきた範囲での印象です)。

  • 傷あとの突っ張りを訴える方は、息を吸ったときの肋骨下部の広がりが左右で違うことがある
  • 帝王切開の傷あと周辺が気になる方では、骨盤まわりや股関節の動きもあわせて確認したほうが納得される場合がある
  • 疲労や冷えがたまった時期に、傷あと周辺の感覚が強く出ると話される方がいる

施術は、整体オステオパシーコース・婦人科オステオパシーコースともに約45分。保険は扱わない自費の整体院で、完全予約制です。施術者は柔道整復師(国家資格)の夫婦2人で、女性の施術者も在籍しています。お子さんを抱っこしたままの施術もできます。なお、傷あとの状態や術後の経過については主治医の指示が優先です。痛みが強い時期や、経過に不安がある場合は、まず医療機関にご相談ください。

セルフケアの具体的な方法は、noteの記事で詳しく解説しています。 → https://note.com/honest_rose9929

まとめ

傷あとが閉じたあとも続く突っ張りや痛みには、皮膚から腹膜までの層のすべりが関わっている可能性があります。研究では、軟部組織モビライゼーションによって痛みの閾値や瘢痕の動きに変化がみられたと報告され、複数の技法を組み合わせる方向性が示されています。傷あとだけを見るのではなく、呼吸・骨盤・内臓の動きまで含めて身体を眺めること。それが、長く残る違和感と向き合うときの手がかりになると考えています。

免責事項:本記事は個人の体験談および一般的な健康情報の提供を目的としており、医療診断・治療に代わるものではありません。同様の効果を保証するものではありません。持病のある方・服薬中の方は生活習慣の変更前に必ず主治医にご相談ください。

参考文献

本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。

  1. Soft tissue mobilization techniques in treating chronic abdominal scar tissue: A quasi-experimental single subject design(J Bodyw Mov Ther 2019) PubMed
  2. Effectiveness of various methods of manual scar therapy(Skin Res Technol 2023) PubMed
  3. Effect of soft tissue mobilization techniques on adhesion-related pain and function in the abdomen: A systematic review(J Bodyw Mov Ther 2019) PubMed

よくある質問

Q. 帝王切開の傷あとが何年も経ってから痛むことはありますか?

A. 時間が経ってから違和感を訴える方は少なくありません。瘢痕組織は周囲の層と癒着し硬さを残すことがあり、姿勢や活動量の変化をきっかけに突っ張りや疼きとして自覚されることがあります。

Q. 傷あと周辺の痛みで腰や背中までつらくなるのはなぜですか?

A. 腹壁の筋膜は背部や骨盤へ連続しているため、お腹側のすべりが落ちると反る動きが制限され、腰背部が代償します。結果として傷あとから離れた場所に負担が集まることがあります。

Q. 瘢痕への手技療法はどのようなアプローチが行われますか?

A. 研究では、単一の方法ではなく複数の技法を組み合わせたアプローチが有用とされています。瘢痕の可動性や周囲組織の緊張を評価しながら、刺激量を調整して進めるのが一般的です。

鈴木大樹

鈴木大樹(すずき だいき)

柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了

茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。

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