「最近、親の歩き方がふらついている」「自分も段差でつまずくことが増えた」。その変化は、年齢のせいだけではありません。転倒の背景には、下肢筋力の低下と、崩れた姿勢を立て直すバランス機能の衰えが重なって起きている可能性があります。この記事では、なぜ筋力とバランスを「組み合わせて」続けることが転倒予防の軸になるのかを、身体の仕組みからていねいに読み解いていきます。何から始めればよいか迷っている方の、最初の整理になれば幸いです。
つまずき・ふらつきが増える時期に、身体の中で何が起きているのか
つまずきは「足が上がっていない」と言われがちですが、実際にはもう少し複雑です。歩くという動作は、片脚で体重を支える時間がおよそ8割を占めます。つまり歩行とは、片脚立ちを左右で延々と繰り返している動作です。ここで必要になるのが、支える力(筋力)と、揺れを察知して立て直す力(バランス機能)の両輪です。
下肢筋力低下は「太さ」より「速さ」から現れる
加齢に伴う下肢筋力の低下では、とっさに素早く力を出す筋線維が先に落ちやすいと考えられています。ゆっくり歩く分には困らないのに、つまずいた瞬間に足が前へ出ない、という状態が起きやすいのはこのためです。脚の太さが保たれていても、「立て直しの一歩」が間に合わなければ転倒につながります。
研究では、60〜74歳を対象に24週間の筋力トレーニングとバランストレーニングを組み合わせた取り組みが、身体機能の向上につながったと報告されています。注目したいのは、片方だけではなく両方を組み合わせている点です。筋力トレーニングは高齢者にとって「支える土台」を、バランストレーニングは「立て直す反応」を担当しており、役割が違うからです。
60代・70代で運動習慣を見直すとき、どちらか一方だけに偏ると、この土台と反応のどちらかが空白のまま残ってしまいます。施術の現場では、「毎日よく歩いているのにふらつく」という方ほど、歩行以外の動き(しゃがむ、またぐ、片脚で止まる)が生活から抜け落ちていることをよく感じます。
下肢筋力とバランス機能はなぜ同時に落ちるのか|筋・関節・感覚の連動
バランスは「脳が頑張っているかどうか」だけで決まるものではありません。立っているときの身体は、常に3つの情報を照らし合わせています。
- 足底や関節からの感覚(床の傾き、体重がどこに乗っているか)
- 内耳の前庭系(頭の傾きと加速度)
- 視覚(周囲との位置関係)
この3つの情報をもとに、足首・膝・股関節・体幹の筋が順番に働いて揺れを収めます。軽い揺れなら足首まわりで、大きな揺れなら股関節と体幹で、それでも足りなければ一歩踏み出して支持面を広げる、という段取りです。
感覚が鈍ると、筋肉は「使われなくなる」
足趾の動きが乏しくなったり、足首の可動域が狭くなったりすると、足底から上がってくる情報量そのものが減ります。情報が減れば、足首での細かい調整は起こりにくくなり、身体は股関節や体幹で大きく揺れて対応するようになります。すると足部の小さな筋はますます出番を失い、下肢筋力の低下と感覚の鈍化が同時に進んでいく、という循環が生まれます。
裏を返せば、この循環には入口が複数あるということでもあります。バランストレーニングの効果を検討した報告では、8週間のバランス訓練や仮想現実(VR)を用いた運動でも、下肢筋力やバランス、歩行などの移動能力に良好な変化がみられたとされています。VRを用いた運動が高齢者で注目されるのは、画面の中の目標に合わせて体重移動を行う過程で、視覚と足元の感覚を結び直す練習になりやすいためと考えられます。歩行能力の変化は、筋肉だけでなく感覚と反応の回路が動き出すことでも起こり得るわけです。
転倒を「足腰だけの問題」にしない見方|オステオパシーからみた全身のつながり
茨城県龍ケ崎市で整体を行っているすーさん夫婦の龍ケ崎整体院では、ふらつきのご相談で足腰だけを診て終わることはしません。もちろん痛むところ、弱っているところも触りますが、それだけでは終わらない、という考え方です。
呼吸と胸郭が、立ち直りの速さに関わる
横隔膜は、呼吸の筋であると同時に姿勢制御にも関わる筋です。息を吸うたびに横隔膜が下がり、腹腔の圧が変化し、体幹の安定性が調整されます。背中が丸まり胸郭の動きが小さくなると、この圧の調整が働きにくくなる可能性があります。体幹が土台として固まりきってしまうと、揺れたときに「股関節で立て直す」という選択肢が使いにくくなります。
内臓の位置と重心の関係
オステオパシーでは、内臓は膜や間膜によって吊られ、呼吸のたびに受動的に動かされていると考えます。腎臓は1回の呼吸で数センチ動くとされ、それを支えているのは強い靭帯ではなく周囲の脂肪組織と腔内の圧です。加齢や長年の姿勢の影響で内臓を支える膜の張力が変わると、体幹の前後の重さの分布がわずかに変わります。わずかな差でも、一日中立ち座りを繰り返す身体にとっては、腰部や股関節まわりの筋の働き方に影響する可能性があります。
また、尾骨や骨盤底も見落とされやすい部位です。転倒で尻もちをついた経験のある方では、骨盤底まわりの反応が鈍くなっていることを感じる場面があります。これまで診てきた範囲では、「足腰を鍛えているのに安定感が戻らない」という方ほど、胸郭の動き・足首の可動域・骨盤底といった土台側の自由度が落ちている印象があります。
整体師として考えていることは、noteにも書いています。整体師として考えていることは、noteにも書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
期間の長さより組み合わせと継続|整体師が考える転倒予防の運動習慣
ここまで見てきた報告を並べると、24週間という長めの取り組みでも、8週間という比較的短い取り組みでも、身体機能に良好な変化がみられたとされています。ここから読み取れるのは、「何年も続けないと意味がない」ということではなく、筋力とバランスを組み合わせた刺激が入り続けているかどうかが鍵になり得る、ということです。
60代・70代から運動習慣をつくるときに、私が整体師として大切だと感じているのは次の視点です。
- 支える練習と、立て直す練習を分けて考える。スクワット的な動きと、片脚で姿勢を保つ動きは目的が違います。
- 足首と足趾を眠らせない。床からの情報が入らないと、バランス側の練習が入りにくくなります。
- 続けられる形を優先する。VRを用いた運動が高齢者で検討されているのも、楽しさや目標の見えやすさが継続につながりやすいためと考えられます。
- 痛みを押して行わない。膝や腰に強い痛みが出る動きは、別の方法に置き換える判断が必要です。
具体的な動作の手順や回数については、安全面の配慮も含めて文章だけで伝えきるのが難しい部分です。セルフケアについて整体師としてどう考えているかは、noteにも書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
なお、ふらつきの背景には耳や神経、血圧、服薬の影響など、運動だけでは説明できない要素が関わることもあります。急にふらつきが強くなった、物が二重に見える、手足のしびれや強い痛みを伴う、といった状態が続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。整体はそのうえで、関節の動きや呼吸、全身のつながりという側面から身体を整えていく役割だと考えています。
日々の施術のなかでは、茨城の地域柄か車移動が中心で歩く距離が短い方も多く、「鍛える前に、動ける範囲を取り戻す」ところから始めたほうが進みやすいケースをよく感じます。
まとめ
ふらつきやつまずきは、下肢筋力の低下と、揺れを立て直す感覚・反応の鈍化が重なって現れている可能性があります。研究では、筋力とバランスを組み合わせた取り組みや、バランス訓練・VRを用いた運動で、下肢筋力や移動能力に良好な変化がみられたと報告されています。期間の長さを気にするより、両方の要素を組み合わせて、無理のない形で続けること。そしてときには、足首や胸郭といった土台側の自由度にも目を向けること。それが転倒予防の現実的な一歩になると考えています。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- A 24-Week Combined Resistance and Balance Training Program Improves Physical Function in Older Adults: A Randomized Controlled Trial(J Strength Cond Res 2025) PubMed
- Effects of 8 Weeks of Balance Training, Virtual Reality Training, and Combined Exercise on Lower Limb Muscle Strength, Balance, and Functional Mobility Among Older Men: A Randomized Controlled Trial(Sports Health 2021) PubMed
- Physical activity programs for balance and fall prevention in elderly: A systematic review(Medicine (Baltimore) 2019) PubMed
- Exercise to prevent falls in older adults: an updated systematic review and meta-analysis(Br J Sports Med 2017) PubMed
よくある質問
Q. 高齢者の転倒予防には筋トレとバランス運動のどちらが先ですか?
A. どちらか一方ではなく組み合わせが大切とされています。研究では60〜74歳で筋力とバランスを併せた24週間の取り組みが身体機能の向上につながったと報告されており、両輪で続ける考え方が基本になります。
Q. 運動は何週間くらい続ければ変化が出ますか?
A. 報告では8週間のバランス訓練でも下肢筋力や移動能力に良好な変化がみられたとされています。期間の長短よりも、無理のない強度で中断せず続けられるかどうかが鍵になります。
Q. VRを使った運動は高齢者にも向いていますか?
A. 仮想現実を用いた運動でもバランスや歩行などの移動能力に良好な変化がみられたという報告があります。楽しみながら続けやすい点が利点ですが、転倒に備えた安全な環境づくりが前提になります。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
さらに深く知りたい方へ
「骨盤が歪んでいますね」と言われたとき、整体師が最初に何を確かめるかは、noteに書いています。
・「骨盤が歪んでいますね」と言われて、私が最初に確かめること(無料)
・揉んでも戻ることについて、痛い場所だけでは終わらないと整体師が考える理由(有料)
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noteの記事は、整体師が研究や施術の中で考えたことをまとめた読み物です。診断・治療に代わるものではありません。
茨城県龍ケ崎市で実際に施術を受けたい方へ
すーさん夫婦の龍ケ崎整体院
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