慢性痛で動くのが怖いとき|運動恐怖と筋膜の深い関係

肩こり
この記事は個人の体験談と参考書籍をもとにした健康情報です。医療的な診断・治療に代わるものではありません。持病のある方・服薬中の方は必ず主治医にご相談ください。

「また痛くなるのが怖くて、かがむのも歩くのも慎重になってしまう」。腰や首の痛みが長く続くと、痛みそのものより、動くことへの不安のほうが暮らしを狭めていくことがあります。買い物を控える、子どもを抱き上げるのをためらう、好きだった散歩をやめる。こうした変化は、気持ちが弱いから起きるわけではないと私は考えています。この記事では、その怖さを気持ちの問題で片づけず、筋膜・呼吸・内臓の連動という身体の仕組みから、柔道整復師の視点で読み解きます。

「動くとまた痛くなる」不安が慢性痛を長引かせる理由

痛みの分野では、動くことへの強い恐怖を「キネシオフォビア(運動恐怖)」と呼ぶことがあります。ぎっくり腰のような強い痛みを経験したあと、同じ動きを避けようとするのは、体を守るための自然な反応です。痛みが強い時期に無理をしないことは、それ自体大切なことです。

気をつけたいのは、その守りの姿勢が、痛みが落ち着いたあとも続いていく場合です。痛みの分野では、次のような流れが「恐怖回避」という考え方で説明されることがあります。

  1. 強い痛みを経験する
  2. 「動くとまた痛くなるのでは」と不安になる
  3. その動きを避ける、または体をこわばらせて動く
  4. 使わない部分の柔軟性や筋力が落ちていく
  5. 少し動いただけで違和感が出やすくなり、不安がさらに強まる

こうして痛みの悪循環ができあがると、慢性痛による生活への支障は、痛みの強さ以上に大きくなっていくことがあります。

怖さは「体を守ろうとする反応」でもある

動くと痛くなる不安は、根性や気の持ちようで消せるものではありません。体は過去に痛かった動きを覚えていて、似た動きをしようとすると、筋肉を先回りして固めることがあります。これは身体の防御反応の一つと考えられます。

すーさん夫婦の龍ケ崎整体院の施術の現場では、「もう痛くないはずなのに、前かがみになる瞬間だけ体が止まる」と話される方に出会うことがあります。お話を聞いていると、何年も前の強い痛みの記憶が、今の動き方に残っている様子がうかがえます。だからこそ、怖さを否定するのではなく、怖さが体のどこにどう現れているかを一緒に見ていくことが大切だと考えています。

動かさない筋膜はなぜ硬くなり、痛みに敏感になるのか

筋膜とは、筋肉や内臓、血管、神経を包み、全身をつないでいる膜の組織です。筋膜は一枚の膜ではなく何層にも重なっていて、層と層の間がなめらかに滑ることで、私たちはスムーズに体を動かせると考えられています。

筋膜の滑走は「動くこと」で保たれる

筋膜の層の間にはヒアルロン酸を含む液があり、潤滑剤のように働いていると専門書では説明されています。この液は、体を動かすことで巡りやすくなると考えられています。反対に、同じ姿勢が続いたり、特定の動きを避け続けたりすると、筋膜の滑走が悪くなり、層同士がくっついたような状態になることがあると言われています。

「動くのが怖いから動かさない」→「筋膜が滑りにくくなる」→「動かしたときに突っ張りや違和感が出る」→「やはり動かすのは怖い」。運動恐怖と筋膜の状態は、こうして互いに影響しあっている可能性があります。

筋膜は感覚の多い組織

筋膜には、体の位置や張り具合を感じ取る感覚の受け手(感覚受容器)が多く分布していると考えられています。滑りが悪く、余計な張力がかかった筋膜からは、その情報が強めに伝わり、ちょっとした動きでも「危ない」という信号として受け取られやすくなる可能性があります。

また、痛みの感じ方は組織の状態だけで決まるものではなく、神経や脳での受け取り方にも左右されると考えられています。痛みが長く続くほど体が刺激に敏感になりやすいことは、慢性痛の一般的な説明としてもよく取り上げられています。

筋膜の硬さと「怖さ」は、どちらが先かを決めにくい関係です。だからこそ、片方だけを見るのではなく、両方を視野に入れておくことが大切だと考えています。

整体師が見る「怖さ」の正体|呼吸・横隔膜・内臓と筋膜のつながり

怖さを感じているとき、人は無意識に息を止めたり、呼吸が浅くなったりしやすいものです。重い物を持ち上げる前に息をこらえるのと同じで、お腹や胸を固めることで体を守ろうとする反応です。

横隔膜と呼吸は、腰や背中ともつながっている

横隔膜は、胸とお腹を仕切るドーム状の筋肉で、呼吸の中心を担っています。解剖学的には、横隔膜の「脚(きゃく)」と呼ばれる部分は腰椎(腰の骨)の前面に付着していて、腰の深い筋肉である大腰筋や腰方形筋も、横隔膜の縁のすぐ近くを通っています。つまり、横隔膜と呼吸の状態は、腰や背中の動きと構造の上でつながっています。

動くのが怖くて浅い呼吸が続くと、横隔膜の動きが小さくなり、その周囲の筋膜の動きも少なくなっている可能性があります。

内臓も筋膜の連なりの中にある

横隔膜のすぐ下には肝臓や胃があり、肝臓は靭帯で横隔膜とつながっています。内臓は呼吸に合わせてわずかに動いていると、内臓を扱うオステオパシーの専門書では説明されています。内臓を包む膜も、全身の筋膜と連続しています。

そのためオステオパシーでは、腰や背中の動きにくさを見るときに、呼吸や内臓まわりの膜の動きもあわせて確認する考え方があります。これは医学的に確立された診断ではなく、オステオパシーで受け継がれてきた体の見方の一つです。

これまで診てきた範囲では、動くのが怖いと話す方のなかに、みぞおちや肋骨の下が固く、呼吸のたびに胸だけが上下しているように見える方が少なくない印象があります。もちろん、すべての方に当てはまるわけではありません。それでも、怖さは気持ちだけでなく、呼吸や膜の動きの小ささとして体にも現れていることがある、と私たちは考えています。

セルフケアについて整体師としてどう考えているかは、noteにも書いています。整体師として考えていることは、noteにも書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929

痛いところだけでは終わらない、整体師が大切にしている体の見方

慢性痛では、痛みを感じている場所と、動きにくさが生まれている場所が、同じとは限らないと考えています。ある部分の動きが悪くなると周りがそれをかばい、さらにその周りがかばう。このかばい合いが長く続くと、痛みの場所だけを見ても全体像がつかみにくくなることがあります。

痛いところも、痛くないところも触る

施術では、痛みのある場所ももちろん確認し、触れます。そのうえで、骨盤や背骨、肋骨や横隔膜まわり、お腹の膜の張りなど、関係していると考えられる部位もあわせて確認します。痛いところだけでは終わらない、というのが私たちの大切にしている見方です。

動くのが怖い方に、いきなり大きく動かすことはしません。手を当てて体の反応を確かめながら、圧の強さや動かす範囲を一つずつ相談して進めます。施術時間は約45分です。「ここまでは動かしても大丈夫だった」という感覚を体で確かめていくことが、怖さとの付き合い方を見直す手がかりになることがあると感じています。

医療機関に相談したい目安

次のような場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

  • 足や腕のしびれ、力の入りにくさがある
  • 発熱を伴う痛みや、安静にしていても強くなる痛みがある
  • 排尿・排便の異常がある
  • 思い当たる理由のない体重の減少がある
  • 痛みや不安が強く、生活への支障が大きくなっている

私たちは夫婦ともに柔道整復師(国家資格)で、鈴木大樹はオステオパシーの専門校で学んでいます。医療の判断が必要な状態は主治医に委ねたうえで、体の動きの面からできることを一緒に考えていきます。

まとめ

慢性痛で動くのが怖いと感じるのは、体が自分を守ろうとしている反応でもあります。ただ、その守りが長く続くと、筋膜の滑走が悪くなり、呼吸が浅くなり、痛みの悪循環が続きやすくなる可能性があります。龍ケ崎で日々施術をしていて感じるのは、怖さを否定せず、体の仕組みとして理解することが、次の一歩につながりやすいということです。焦らず、ご自身の体のペースで向き合っていきましょう。

免責事項:本記事は個人の体験談および一般的な健康情報の提供を目的としており、医療診断・治療に代わるものではありません。同様の効果を保証するものではありません。持病のある方・服薬中の方は生活習慣の変更前に必ず主治医にご相談ください。

参考文献

本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。

  1. Role of kinesiophobia on pain, disability and quality of life in people suffering from chronic musculoskeletal pain: a systematic review(Br J Sports Med 2019) PubMed
  2. Treatments for kinesiophobia in people with chronic pain: A scoping review(Front Behav Neurosci 2022) PubMed

よくある質問

Q. 慢性痛で動くのが怖いのは気のせいですか?

A. 気のせいではありません。痛みを経験した体と脳は、同じ動きを危険なものとして覚えることがあり、運動恐怖(キネシオフォビア)と呼ばれます。気持ちの弱さではなく、身を守ろうとする自然な反応のひとつと考えられています。

Q. 痛いのに動いたほうがいいって本当ですか?

A. 動かさない期間が長いと筋膜の滑りが悪くなり、かえって動きにくさや痛みの感じやすさにつながることがあります。ただし無理は禁物で、どの程度動いてよいかは体の状態で違うため、医師や専門家と相談しながら進めることが大切です。

Q. 検査で異常なしと言われたのに痛いのはなぜですか?

A. 画像検査は骨や椎間板などの形を確かめるのは得意ですが、筋膜の滑りや張り、感覚の過敏さといった機能面は映りにくい部分です。ただし、しびれや強い痛み、発熱を伴う場合は、まず医療機関を受診してください。

鈴木大樹

鈴木大樹(すずき だいき)

柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了

茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。

さらに深く知りたい方へ

デスクワークやスマホの姿勢と首・肩のつらさについて、研究で言えることと言えないことを分けて、noteに書いています。

・「座りっぱなしだから、首と肩がつらい」は、どこまで本当か|デスクワークと首・肩の研究を、言えること・言えないことに分けて読む(有料)
・揉んでも戻ることについて、痛い場所だけでは終わらないと整体師が考える理由(有料)

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