
「青魚は体に良い」「オメガ3は炎症を抑える」。そんな話を耳にする機会は多いと思います。ただ、研究で報告されている仕組みを見ていくと、オメガ3の役割は「抑える」だけではないようです。EPA・DHAは細胞膜の材料として炎症に関わる物質の産生パターンに影響し、さらに炎症を「終わらせる」SPMという物質の材料にもなると報告されています。平日は植物中心、週末は刺身も楽しむ柔道整復師の整体師が、身体全体の視点からその仕組みを読み解きます。
青魚が炎症に良いと言われる理由は「抑える」だけではない
炎症というと「悪いもの」というイメージがあるかもしれません。けれど本来の炎症は、ケガや感染から身体を守るための大切な反応です。赤くなる、熱を持つ、腫れる、痛むといった変化は、傷んだ組織に血液や免疫細胞を集め、修復の準備を進めている合図と考えられています。
問題になりやすいのは、炎症が始まることそのものよりも、役目を終えたあとにうまく終わらないことです。弱い炎症がだらだらと続く状態は慢性炎症と呼ばれ、さまざまな生活習慣病との関連が研究されています。
炎症は「自然に消える」のではなく「終わらせる」もの
以前は、炎症は時間がたてば勝手に静まっていくものと考えられていました。ところがここ20年ほどの研究で、炎症の終わりには専用の物質が関わっていて、身体が能動的に幕引きをしているという見方が広がってきました。
この流れのなかで注目されているのが、青魚に多いオメガ3脂肪酸のEPA・DHAです。研究で報告されているEPA・DHAの働きは、大きく分けて次の2つです。
- 細胞膜の材料となり、炎症に関わる物質の産生パターンに影響する(炎症の起こり方)
- 炎症の収束を促す物質の材料になる(炎症の終わり方)
茨城県龍ケ崎市のすーさん夫婦の龍ケ崎整体院で日々施術をしていると、「オメガ3は炎症を抑える油」とだけ覚えている方によく出会います。それも間違いではありませんが、後半の「終わらせる」側の話を知ると、青魚の見え方が少し変わると思います。
EPA・DHAが細胞膜の脂肪酸組成を変え、炎症物質の産生パターンに影響する仕組み
私たちの細胞は、細胞膜という薄い膜に包まれています。この膜の主成分が細胞膜のリン脂質(リンを含む脂質)で、そこに脂肪酸が組み込まれています。どんな脂肪酸が組み込まれるかは、日々の食事から摂る脂の種類に影響されると考えられています。
アラキドン酸(オメガ6)から生まれる炎症の合図
細胞膜に多く含まれる脂肪酸のひとつが、オメガ6系のアラキドン酸です。細胞が刺激を受けると膜からアラキドン酸が切り出され、酵素の働きでプロスタグランジンやロイコトリエンといった物質に変わります。これらは血管を広げる、白血球を呼び寄せるなど、炎症を立ち上げる合図として働くとされています。
ここで研究が示しているのが、EPA・DHAを継続して摂ることで、細胞膜の脂肪酸組成が変化するという点です。報告されている流れを整理すると、次のようになります。
- EPA・DHAが細胞膜のリン脂質に取り込まれる
- そのぶん、膜にあるアラキドン酸の割合が下がる
- EPAはアラキドン酸と同じ酵素を取り合うため、アラキドン酸由来の物質がつくられにくくなる
- EPAからつくられる物質は、アラキドン酸由来のものより炎症を起こす働きが弱いとされている
つまりオメガ3は、炎症の合図を直接打ち消すというより、合図の材料の配合を変えることで産生パターンに影響していると考えられています。
オメガ6は悪者ではない
オメガ6系の脂肪酸も、身体に必要な脂肪酸です。炎症を立ち上げる力がなければ、ケガや感染に対応できません。現代の食事はオメガ6に偏りやすいと指摘されていて、大切なのはどちらかをなくすことではなく、両者のバランスだとされています。また、細胞膜の組成は一度の食事で入れ替わるものではなく、日々の積み重ねで少しずつ変わっていくと考えられています。
炎症を終わらせるSPMとは|レゾルビン・プロテクチン・マレシンと整体師が「収束」に注目する理由
EPA・DHAのもうひとつの働きとして報告されているのが、SPMの材料になることです。SPMは特異的炎症収束性メディエーターの略で、炎症の幕引きを担う物質の総称です。EPA・DHAを材料とする代表的なものに、次の3つがあります。
- レゾルビン:英語の「resolve(解決する)」に由来。EPAからつくられるE系列と、DHAからつくられるD系列がある
- プロテクチン:DHAからつくられ、神経などの組織を保護する働きが研究されてきた
- マレシン:DHAからつくられ、「マクロファージ(組織の掃除役の免疫細胞)がつくる炎症収束の物質」という意味の英語から名付けられた
「ブレーキ」ではなく「後片付け」の役割
研究では、SPMは炎症の場に白血球が集まりすぎないよう調整し、マクロファージが死んだ細胞や残骸を片付ける働きを後押しすると報告されています。炎症を力ずくで止めるブレーキというより、役目を終えた現場を片付ける係のようなイメージです。
なお、SPMにはアラキドン酸からつくられるリポキシンも含まれます。オメガ6とオメガ3は、ここでも対立というより役割分担の関係にあるといえます。ただし、SPMの研究の多くは細胞や動物を使った段階で、人の身体でどの程度働いているのかは、まだ研究が続いている分野です。
整体師が「収束」に注目する理由
オステオパシーの専門校で内臓へのアプローチを学んでいると、「炎症のあと」に目を向ける考え方に出会います。炎症を経験した組織では、内臓を包む膜(漿膜)のすべりが悪くなり、隣り合う組織とくっつくような制限が残ることがある、という見方です。内臓は呼吸のたびに動くため、わずかな制限でも1日に何万回と繰り返されれば、周りの構造に負担をかける可能性があると考えられています。
SPMの研究とこの考え方を直接結びつけた研究があるわけではありません。それでも、「炎症をどう抑えるか」だけでなく「どう終わらせるか」に注目する点で、問題意識が重なっていると感じています。
整体師として考えていることは、noteにも書いています。食と身体のつながりについては、noteで整体師の実体験とともに詳しく書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
整体師が食と炎症のバランスを身体全体で捉える視点(BODY×MIND×SPIRIT)
龍ケ崎の施術室でも、身体をBODY・MIND・SPIRITの3つの軸で捉えるようにしています。
BODY:構造と内臓の動きを見る
筋肉や関節だけでなく、内臓や頭蓋の動きも含めて身体の状態を確認します。痛いところも触りますが、痛いところだけでは終わらず、関係していると考えられる部位もあわせて確認する。これが私たちが大切にしている見方です。
MIND:食事と自然療法
EPA・DHAの話は、食が身体の内側の環境に関わる一例です。私自身は平日はほぼ植物中心、週末はBBQや刺身も楽しむゆるいスタイルで、食生活を変えてから痛風の発作が出にくくなってきた感覚や、血圧の数値が落ち着いてきた感覚があります(個人の体験です。何が影響したのかは特定できていません)。
これまで診てきた範囲では、首や腰のつらさで来られた方と食事の話になると、「油は控えている」と言いながら、どんな種類の油を摂っているかまでは意識していなかった、という方もいます。量だけでなく種類という視点があると、食事の見方が少し広がるかもしれません。これは施術の現場で感じている傾向で、症状と食事の因果関係を示すものではありません。
なお、今回紹介した研究は腸内環境への直接の作用を扱ったものではないため、ここではお腹の調子と結びつけることはしません。食と身体のつながりについては、noteで整体師の実体験とともに詳しく書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
魚油のサプリメントを検討している方、とくに血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は、事前に主治医や薬剤師にご相談ください。
SPIRIT:炎症も身体の営みの一部として見る
炎症は敵ではなく、身体が自分を守り、立て直そうとする営みの一部です。抑え込むことだけを考えるのではなく、始まりから終わりまでの流れ全体を見る。この視点は、食事にも施術にも共通していると考えています。
関節の腫れや熱感、強い痛み、発熱、しびれなどが続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
まとめ
青魚が炎症に良いと言われる背景には、EPA・DHAが細胞膜の脂肪酸組成を変えて炎症物質の産生パターンに影響すること、そして炎症を終わらせるSPMの材料になることが研究で報告されている、という事実があります。オメガ3は「抑える油」というだけでなく、「終わらせる仕組み」に関わる材料でもあります。ただしSPMの研究は途上の部分も多く、青魚だけで何かが決まるわけではありません。食事、身体の動き、日々の過ごし方を含めた全体のバランスのなかで、炎症との付き合い方を考えていくことが大切だと考えています。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Omega-3 fatty acids and inflammatory processes: from molecules to man(Biochem Soc Trans 2017) PubMed
- Omega-3 fatty acids and inflammatory processes(Nutrients 2010) PubMed
- Specialized pro-resolving mediator network: an update on production and actions(Essays Biochem 2020) PubMed
- DHA- and EPA-derived resolvins, protectins, and maresins in airway inflammation(Eur J Pharmacol 2016) PubMed
よくある質問
Q. 青魚を食べれば炎症はすぐおさまるの?
A. 研究で報告されているのは、EPA・DHAが細胞膜の脂肪酸組成を変え、炎症に関わる物質の産生パターンに影響する可能性です。食べてすぐ症状が変わるというより、日々の食事の積み重ねが体内の炎症バランスに関わると考えられています。
Q. レゾルビンってどんな物質なの?
A. レゾルビンは、EPAやDHAからつくられるSPM(特異的炎症収束性メディエーター)の一種です。炎症を単に抑え込むのではなく、炎症の後片付けを進めて収束へ導く働きがあると報告されており、プロテクチンやマレシンも同じ仲間です。
Q. オメガ3は青魚とサプリのどちらでとるのがいいの?
A. 今回紹介した研究は、食事を通じたオメガ3の摂取に注目したものです。青魚にはEPA・DHA以外の栄養素も含まれます。サプリメントを検討する場合、持病や服薬がある方は事前に医師や薬剤師へ相談することをおすすめします。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
さらに深く知りたい方へ
腸と身体の痛みがつながっているのかどうか、わかっていることとわかっていないことをnoteに書いています。
・腸と身体の痛みは、つながっているのか(無料)
・1兆724億円の市場で、飲んだ菌はどこへ行くのか(有料)
・2万5千人を5年追って、オメガ3のサプリと薬は何を変えたのか(有料)
有料記事は買い切りです。価格(税込)はnoteの各記事ページに表示しています。
noteの記事は、整体師が研究や施術の中で考えたことをまとめた読み物です。診断・治療に代わるものではありません。
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