スマートフォンを見る時間が長くなるほど、首すじや肩、背中上部の張りが抜けにくくなる。そう感じている方は少なくありません。この不調の背景には、ある筋肉は緊張し、別の筋肉は働きにくくなるという「アンバランス」が関わっていると指摘されています。本記事では、上位交差症候群と筋膜性疼痛という2つの視点から、首・肩のつらさが生まれる仕組みを整理します。研究で報告されている範囲と、施術の現場で感じている傾向を分けて書いていきます。
スマホを見る時間が長い人ほど首・肩が張りやすいのはなぜか
成人の頭部はおよそ4〜6kgあるとされ、体重の約8〜10%を占めます。この重さは、首がまっすぐ立っているときには脊柱という支柱の真上に乗っているため、筋肉の負担は比較的小さくて済みます。ところが画面をのぞき込むように首を前へ傾けると、頭の重心が支柱の前方へ外れます。すると首の後ろ側の筋肉は、倒れようとする頭を後ろから引っぱり続けなければなりません。
ここで重要なのは「力の大きさ」よりも「時間の長さ」です。重いものを一瞬持ち上げる動作より、軽いものを持ち続ける動作のほうが筋肉にはこたえます。スマートフォンの操作は、まさに後者の典型です。1回あたりは数分でも、1日に何十回と積み重なれば、首の後ろから肩、背中上部にかけての筋群はほとんど休む間がありません。
研究では、スマートフォン使用時に首を曲げた姿勢が長時間続くことと、首・肩の不調との関連が指摘されており、日頃の姿勢への配慮が負担の軽減につながる可能性が示されています。「スマホの使用そのものが悪い」という話ではなく、同じ角度で固定される時間が長いことが論点になっている、という読み方が実際に近いと思います。
デスクワークとスマホは「同じ姿勢」の延長線上にある
デスクワークでの肩こりを訴える方の多くは、仕事中もプライベートも首を前に倒した状態が続いています。パソコンのモニターを見る角度と、手元のスマートフォンを見る角度。角度こそ違いますが、頭が身体の前方にあるという点では同じです。つまり通勤電車・勤務中・帰宅後と、一日を通してほぼ連続した負荷になっている。首の痛みの原因を考えるとき、「どの瞬間が悪かったか」ではなく「一日の合計でどれだけ同じ形でいたか」を見るほうが実態に合うことが多いのです。
あわせて読む
上位交差症候群|緊張する筋肉と働きにくくなる筋肉のアンバランス
頭が前方に出た姿勢が続くと、首・肩まわりの筋肉は一律に疲れるのではなく、緊張しやすいグループと働きにくくなるグループに分かれていきます。この偏りを整理した捉え方が「上位交差症候群」です。身体を横から見たとき、緊張する筋肉同士を結んだ線と、働きにくくなる筋肉同士を結んだ線が、肩のあたりで×(交差)の形を描くことからこう呼ばれています。
一般に次のような分かれ方が説明されています。
- 緊張・短縮しやすい側:後頭下筋群(頭のつけ根)、上部僧帽筋(首すじから肩)、肩甲挙筋(肩甲骨の内上角)、大胸筋・小胸筋(胸の前)
- 働きにくくなりやすい側:深部頸屈筋(のどの奥側で頭を支える筋)、下部僧帽筋・菱形筋(背中の中ほど)、前鋸筋(肩甲骨を肋骨に添わせる筋)
この組み合わせが続くと、胸の前が縮んで肩が内へ巻き、背中の中ほどで肩甲骨を支える力が落ち、その分を首すじの筋肉が肩代わりする、という連鎖が起きている可能性があります。いわゆる猫背の見た目は、この連鎖の結果として現れているとも言えます。
「こっている場所」と「弱っている場所」は違う
ここが実務的にいちばん大事なところです。つらいのは首すじや肩の上です。しかし上位交差症候群という見方に立つと、首すじが張るのはそこが頑張りすぎているからであり、頑張らざるを得ない理由が背中側や胸の前にある、という構図になります。張っている場所をほぐすだけでは戻りやすい、という感覚を持つ方が多いのも、この構図で説明がつく部分があります。
研究では、首・肩・背中上部の筋緊張と筋力低下を特徴とするこの状態に対して、運動療法や徒手的アプローチなどの介入が検討されていると報告されています。ただし現時点では「検討されている段階」であり、どの方法がどれだけ、という結論が確定しているわけではありません。猫背の改善を目的とした運動も、緊張側をゆるめる方向と、働きにくい側を使えるようにする方向の両方が議論されています。
筋膜性疼痛と姿勢の持続|整体師・オステオパシーの視点で首と肩を見る
もうひとつ押さえておきたいのが筋膜性疼痛です。研究では、筋膜性疼痛が筋骨格系の痛みの大きな要因の一つとされています。筋膜は筋肉を包み、隣の筋肉へ、さらに骨や内臓を包む膜へと連続していく全身のネットワークです。レントゲンやMRIでは写りにくい一方、痛みの発生源として無視できない組織だと考えられています。
同じ姿勢が長く続くと、筋膜どうしの滑りが低下し、特定の部位に張力が集まりやすくなると説明されています。首の痛みの原因を探していくと、首そのものより、胸の前・脇の下・肩甲骨の裏といった「つながりの途中」に硬さが見つかることがある。徒手療法やオステオパシーの発想では、痛む場所だけで完結させず、張力が伝わってくる経路もあわせて確認していきます。
オステオパシーの文脈では、首・肩の問題を見るときに呼吸の動きも一緒に確認します。横隔膜は1日に2万回ほど動くとされ、胸郭の動きが乏しくなると、首の前側にある呼吸補助筋(斜角筋・胸鎖乳突筋など)が肩代わりしやすくなります。浅く速い呼吸が続いている方の首が張りやすいのは、この構造的な事情も関わっていると考えられます。呼吸・肋骨・肩甲骨・頸椎は、別々の部品ではなく一つの連続体として動いているわけです。
施術の現場で感じていること
茨城・龍ケ崎ですーさん夫婦の龍ケ崎整体院を開いてから、デスクワークの方や学生さんの首・肩のご相談を受ける機会が多くあります。これまで診てきた範囲では、首すじの張りを訴える方で、胸の前側や脇の下、肩甲骨まわりの動きの乏しさが一緒に見つかることが少なくありません。施術では痛む首だけで終わらせず、痛くない場所も触れて確認していきます。これは医学的な因果として証明された話ではなく、施術の現場で感じている傾向としてお伝えしているものです。
なお、しびれや脱力がある、安静にしていても強い痛みが続く、発熱や原因のはっきりしない体重の変化を伴う。こうした状態が続く場合や強い痛みがある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
整体師として考えていることは、noteにも書いています。整体師として考えていることは、noteにも書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
首・肩の負担と向き合うために日常で意識したい姿勢の考え方
ここまで見てきたように、スマホ首による肩こりや姿勢の崩れは、一つの悪い動作が原因というより、同じ形でいる時間の総量が関わっていると考えられます。そう捉えると、日常で意識する方向もはっきりしてきます。
- 角度より時間を見る:完璧な姿勢を保ち続けるより、同じ形が続かないようにするほうが現実的です。
- 画面を顔の高さへ近づける:首を下げて画面に合わせるか、画面を上げて首に合わせるか。選べるのは後者です。
- 胸の前と背中の中ほどに意識を置く:首すじだけでなく、縮みやすい胸側と使われにくい背中側の両方を視野に入れる。猫背の改善を目的とした運動でも、この両輪が議論されています。
- 呼吸が浅くなっていないか気づく:胸郭が動かない時間が続くと、首の筋肉が呼吸を手伝いやすくなります。
セルフケアについて整体師としてどう考えているかは、noteにも書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
「正しい姿勢」を目指しすぎないという選択
龍ケ崎で日々お話をうかがっていると、「正しい姿勢を保たなければ」と力み続けて、かえって背中や首に緊張を抱え込んでいる方にお会いすることがあります。姿勢は彫像のように固定するものではなく、刻々と変わっていくものです。上位交差症候群という枠組みも、「この形がダメ」という減点のための物差しではなく、どこに負担が集まりやすいかを知るための地図として使うほうが役に立つと感じています。
私自身、オステオパシーの専門校で学びながら施術をしていますが、身体の見方が広がるほど「一か所で原因を言い切らない」姿勢が大事だと感じるようになりました。首の張りの背景には、仕事の量、睡眠、食事、気持ちの余裕といった要素も重なってきます。構造だけでも、生活だけでもない。その両方を並べて眺めることが、結果的に遠回りにならないように思います。
まとめ
スマートフォンやデスクワークによる首・肩の張りは、首だけの問題として閉じていないことが多いものです。緊張する筋肉と働きにくくなる筋肉のアンバランスを整理した上位交差症候群という見方、そして筋膜性疼痛という視点を重ねると、「なぜ揉んでも戻りやすいのか」が少し見えてきます。運動療法や徒手的アプローチは検討が進められている段階です。日々の姿勢の持続時間に目を向けながら、気になる症状が続くときは医療機関にもご相談ください。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Myofascial pain – A major player in musculoskeletal pain(Best Pract Res Clin Rheumatol 2024) PubMed
- Treatment of Upper Crossed Syndrome: A Narrative Systematic Review(Healthcare (Basel) 2023) PubMed
- Neck pain associated with smartphone usage among university students(PLoS One 2023) PubMed
- Occupational ergonomics and related musculoskeletal disorders among dentists: A systematic review(Work 2023) PubMed
よくある質問
Q. スマホ首と肩こりは関係があるのですか?
A. スマートフォン使用時に首を曲げた姿勢が長時間続くことと、首・肩の不調との関連が指摘されています。同じ姿勢の持続が首や肩まわりの筋への負担につながると考えられています。
Q. 上位交差症候群とはどんな状態ですか?
A. 首の前側や胸、肩まわりの一部の筋が緊張し、反対に首の深部や背中上部の筋が働きにくくなるアンバランスを特徴とする捉え方です。運動療法や徒手的アプローチが検討されています。
Q. 肩や首の張りが長引くときは何を見直せばよいですか?
A. 画面の高さや座る時間の長さなど、同じ姿勢が続く環境を見直す視点が挙げられます。日頃の姿勢への配慮が負担の軽減につながる可能性が示されています。気になる症状は医療機関へご相談ください。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
さらに深く知りたい方へ
「骨盤が歪んでいますね」と言われたとき、整体師が最初に何を確かめるかは、noteに書いています。
・「骨盤が歪んでいますね」と言われて、私が最初に確かめること(無料)
・揉んでも戻ることについて、痛い場所だけでは終わらないと整体師が考える理由(有料)
有料記事は買い切りです。価格(税込)はnoteの各記事ページに表示しています。
noteの記事は、整体師が研究や施術の中で考えたことをまとめた読み物です。診断・治療に代わるものではありません。
茨城県龍ケ崎市で実際に施術を受けたい方へ
すーさん夫婦の龍ケ崎整体院
所在地:茨城県龍ケ崎市愛戸町58-2(龍ケ崎郵便局から徒歩2分)
電話:080-3406-6568 営業時間:平日9:00〜21:00 / 土曜8:30〜15:30


