椅子から立ち上がるとき、以前より「よっこいしょ」が増えていませんか。ズボンの太ももが余ってきた、ペットボトルの蓋が開けにくい、青信号のうちに横断歩道を渡りきれない——そんな小さな変化の背景には、加齢にともなうタンパク質の代謝効率の低下が関わっていると考えられています。この記事では、高齢者が若年者より多めのタンパク質を必要とするとされる理由と、食事と運動を組み合わせることで筋肉量・筋力の指標に良い変化がみられたという報告を整理し、「動ける体」を保つための考え方を、整体師の視点からお伝えします。
立ち上がりが重い・脚が細くなった——その変化は「量」より「使えなさ」から始まる
60代以降の方から相談を受けていて多いのが、「どこかが痛いわけではないのに、動き出しが重い」という言い方です。痛みという明確な信号ではなく、動作の立ち上がりにワンテンポ余計にかかるという感覚。これは筋力低下と加齢の関係を考えるうえで、とても早い段階のサインだと感じています。
加齢による筋肉の変化は、まず「量」より先に「出力の速さ」から現れるとされています。筋肉には、ゆっくり持続的に働く線維と、素早く大きな力を出す線維がありますが、年齢とともに影響を受けやすいのは後者のほうだと言われています。だから、長く歩けるかどうかより先に、とっさに踏ん張る・勢いよく立ち上がるといった場面で先に違和感が出るわけです。
フレイルの入口は握力と歩行速度に出る
加齢による心身の活力低下、いわゆるフレイルの評価では、握力と歩行速度が代表的な指標として使われます。握力は全身の筋力をおおまかに反映しやすく、歩行速度は筋力・バランス・神経の連携をまとめて映す指標です。
- 瓶の蓋、ペットボトル、洗濯バサミが扱いにくくなった
- 横断歩道を点滅までに渡りきれないことが増えた
- 手すりに頼らず階段を降りるのが不安になった
- ふくらはぎや太ももが細くなり、ズボンがゆるくなった
こうした変化が重なってきたとき、「年のせいだから仕方がない」で止めてしまうのは、もったいないと考えています。サルコペニア(加齢にともなう筋肉量・筋力の低下)は進行性の変化ですが、食事と運動という手がかりが研究の場でも検討されている領域だからです。
ただし、急に片脚だけが細くなった、しびれをともなう、体重が短期間で大きく減った、発熱や強い痛みがあるといった場合は、加齢の変化とは別の背景が隠れていることがあります。こうした症状・状態が続く場合や強い痛みがある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
なぜ高齢者は若年者より多くのタンパク質が必要なのか|同化抵抗性とサルコペニアの仕組み
「若い頃と同じくらい食べているのに、脚だけ細くなる」。これはよく聞く声です。背景のひとつとして説明されているのが、同化抵抗性(アナボリック・レジスタンス)という考え方です。
筋肉は常に分解と合成を繰り返していて、食事でタンパク質(正確にはその材料であるアミノ酸)が血中に入ると、合成のスイッチが入ります。ところが年齢を重ねると、同じ量のタンパク質を摂っても、このスイッチの入り方が鈍くなりやすいとされています。つまり、若い頃と同じ量では、同じだけ筋肉の材料として使われにくい。だからこそ、研究では高齢者はタンパク質の代謝効率が低下するため、若年者より多めの摂取が望ましいとされています。
タンパク質摂取量とサルコペニアの関連
タンパク質摂取量とサルコペニアとの関連を示す報告もあり、摂取が少ない層ほど筋肉量・筋力の指標が低い傾向がみられたという整理がなされています。高齢者のタンパク質摂取量の目安については、公的な食事摂取基準でも年齢ごとに考え方が示されていますが、持病(特に腎機能に関わるもの)がある方は目安が変わるため、具体的な量は主治医や管理栄養士に確認するのが確実です。
もうひとつ押さえておきたいのが「配分」です。朝はトーストとコーヒーだけ、昼は麺類だけ、夜にまとめて肉や魚——という食べ方だと、一日の合計が足りていても、合成のスイッチが入る回数が少なくなります。筋肉の合成は貯金ができません。一日のうちで何回、材料が届いたかという視点が、合計量と同じくらい意味を持つと考えられています。
また、高齢になるほど食欲そのものが落ちやすく、噛む力や唾液の量、義歯の具合といった口まわりの条件も摂取量を左右します。施術の現場では、「肉が食べにくくなった」という方ほど、脚の細りが先に進んでいる印象を受けることがあります。これはあくまで日々の施術のなかで感じている傾向であり、医学的に確立した因果関係として申し上げるものではありません。
食べても筋肉にならない体の背景|消化・吸収・呼吸・姿勢を整体師はこう見る
ここからは整体師・オステオパシーを学ぶ者としての視点です。タンパク質は「食べた量」ではなく「消化され、吸収され、運ばれた量」が体に入ります。この途中経路が渋滞していると、食事を増やしても材料が届きにくくなる可能性があります。
胃・小腸・横隔膜という通り道
タンパク質の消化は胃酸とペプシンから始まりますが、胃酸の分泌量は加齢とともに低下しやすいとされます。さらに、60代以降では食道と胃のつなぎ目がゆるむ変化(食道裂孔ヘルニア)が珍しくないことも知られており、胸やけやもたれから食事量そのものが落ちていくことがあります。
オステオパシーの内臓への視点では、こうした胃や腸の働きを横隔膜の動きとセットで見ます。横隔膜は呼吸のたびに上下して、胃・肝臓・腸を穏やかに揺すっています。猫背で胸が縮み、呼吸が浅くなると、この一日何万回の「揺すり」が減ります。微細な制限でも、回数が積み重なれば内臓の循環や動きに影響しうると考えられています。
- 姿勢の前かがみ…胸郭が狭くなり、横隔膜の上下運動が小さくなる可能性
- 腹筋の張力低下…腹腔の内圧が保ちにくくなり、胃や腸が下方へ落ち込む傾向
- 肝臓・胆嚢まわりの硬さ…脂質やタンパク質の消化に関わる胆汁の流れに関係しうる
- 食後の強い眠気・張り…消化に負担がかかっている可能性のサイン
施術の現場では、立ち上がりの重さを訴える方に、胸郭や上腹部の動きの乏しさが同時にみられることをしばしば感じます。これまで診てきた範囲では、腰や脚だけを見るより、呼吸と上腹部の動きをあわせて確認したほうが、全体像がつかみやすいと感じています(医学的な診断ではなく、触診上の印象です)。
そのため、痛いところだけでは終わらず、痛くないところも触って確認していきます。茨城県龍ケ崎市のすーさん夫婦の龍ケ崎整体院では、腰や股関節の動きに加えて、肋骨・横隔膜・上腹部の動きやすさもあわせて確認し、約45分のなかで体全体の連動を見ていきます。
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食事と運動の両輪で「動ける体」を保つ|オステオパシー的な全体性の視点から
食事か運動か、どちらから手をつければいいか——よく聞かれる質問ですが、研究の流れを見るかぎり、答えは「両方」です。レジスタンス運動(筋肉に抵抗をかける運動)とタンパク質補給を組み合わせることで、筋肉量や筋力の指標に良い変化がみられたという報告があり、食事と運動の両面からの取り組みが、年齢を重ねても動ける体の維持につながる可能性が示されています。
理由は仕組みから考えると納得しやすいところです。運動は筋肉に「材料を受け取る準備」をさせ、食事はその材料を届けます。片方だけでは、鍵があっても扉がない、扉があっても鍵がない状態になりやすい。先ほどの同化抵抗性も、運動刺激が加わると感度が変わりうると説明されています。
プロテイン飲料をどう位置づけるか
高齢者を対象とした研究では、吸収が速い乳由来のタンパク質(ホエイ)を用いた検討も行われています。ただし、これは「飲めば筋肉が増える」という話ではなく、食事だけで必要量が摂りにくい場合の選択肢のひとつという位置づけです。腎機能に不安のある方、服薬中の方は、必ず主治医に確認してから取り入れてください。
運動については、具体的な種目や回数をここで示すことはしませんが、方向性としては「日常動作そのものに負荷が含まれているか」を見直すところからだと考えています。椅子からの立ち座り、階段、買い物袋。生活のなかに抵抗のかかる場面がどれだけ残っているかが、脚の細りの速度に関わってきます。
オステオパシーが大切にするのは、体を部品の集まりではなく一続きのものとして見る視点です。噛む力、呼吸、内臓の動き、骨盤と脚の連動、そして食べたいと思える気持ち。どれか一つだけを強化しても、全体が動かなければ結果は出にくい。私たちが大切にしているのは、どこが渋滞しているのかを一緒に探し、動きやすい状態に整えていくことです。変化の出方には個人差があります。
まとめ
立ち上がりの重さや脚の細りは、加齢による筋力低下の早い段階のサインかもしれません。高齢者はタンパク質の代謝効率が下がるため、若年者より多めの摂取が望ましいとされ、レジスタンス運動との組み合わせで筋肉量・筋力の指標に良い変化がみられたという報告もあります。食事と運動の両輪に加えて、消化・呼吸・姿勢という「材料が届く経路」も合わせて見直してみてください。気になる症状が続くときは、医療機関にご相談ください。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Protein Intake and Sarcopenia in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis(Int J Environ Res Public Health 2022) PubMed
- Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group(J Am Med Dir Assoc 2013) PubMed
- Comparative Efficacy of Different Protein Supplements on Muscle Mass, Strength, and Physical Indices of Sarcopenia among Community-Dwelling, Hospitalized or Institutionalized Older Adults Undergoing Resistance Training: A Network Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials(Nutrients 2024) PubMed
- Effectiveness of Whey Protein Supplementation during Resistance Exercise Training on Skeletal Muscle Mass and Strength in Older People with Sarcopenia: A Systematic Review and Meta-Analysis(Nutrients 2023) PubMed
よくある質問
Q. 高齢者はタンパク質をどのくらい摂ればいいですか?
A. 加齢で代謝効率が下がるため、若年者より多めの摂取が望ましいとされています。ただし腎機能や持病によって適量は変わるため、具体的な数値は主治医や管理栄養士に確認するのが安全です。
Q. プロテインを飲めば筋肉は戻りますか?
A. 補給だけでは不十分とされ、レジスタンス運動と組み合わせた場合に筋肉量や筋力の指標が良い方向へ動いたという報告があります。食事と運動の両輪で考えることが前提になります。
Q. 食事量が減ってタンパク質が摂りにくいのですが?
A. 食欲低下の背景には消化力や呼吸の浅さ、姿勢の崩れが関わることがあります。まず一日の中で食べられるタイミングに分けて摂る工夫と、体の土台を整える視点の両方が役立ちます。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
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