腰を揉んでもストレッチをしても、お尻の上あたりの重だるい痛みだけが残る。その背景に、仙腸関節という骨盤の奥にある関節が関わっていることがあります。研究では、腰まわりの痛みの原因として仙腸関節の不調が多く見られ、単一のテストではなく複数の整形外科的検査を組み合わせた評価が有用とされています。なぜこの関節は見落とされやすいのか。構造の話から順を追って、整体師の目線で解説していきます。
腰ではなくお尻の上が痛む、仙腸関節が疑われるとき
「腰痛です」と言いながら、手が自然に当たる場所がベルトラインより下、お尻の少し上、という方がいます。骨盤の後ろで出っ張っている骨(上後腸骨棘)のあたりです。ここは腰椎ではなく、仙骨と腸骨が向かい合う仙腸関節の真上にあたります。
仙腸関節が関わる痛みには、いくつか語られやすい特徴があります。
- 痛む場所を聞くと、一本の指でお尻の上あたりを指せる
- 左右どちらか片側だけに出やすい
- 長く座ったあとの立ち上がり、寝返り、靴下を履く動作でつらい
- 片足立ちや階段の一段目で、骨盤が抜けるような頼りなさがある
- 太ももの裏や鼠径部まで広がることはあっても、膝から下にはっきり響くとは限らない
腰椎の問題として扱われてきた痛みの中に、こうした仙腸関節障害が少なくない割合で含まれていると報告されています。腰のストレッチや腰部へのマッサージを続けても変化を感じにくい場合、そもそも痛みの出どころが腰椎ではない、という可能性を一度置いてみる価値はあります。
施術の現場では、産後の方と、長時間の立ち仕事・車の運転が多い方に、この部位の訴えを聞くことが多いという印象があります。もちろん人によって背景は異なりますし、痛みの場所だけで決めつけることはできません。
ほとんど動かない関節がなぜ痛むのか|仙腸関節と骨盤帯の構造
仙腸関節は、仙骨の耳の形に似た面(耳状面)と腸骨の面が噛み合った関節です。可動域はごくわずかで、動きは数ミリ〜数度の範囲とされています。「ほとんど動かないなら痛みと関係ないのでは」と思われがちですが、むしろ動きが小さいからこそ、そこに大きな荷重が通っていると考えるほうが実態に近いと言えます。
ニューテーションと靭帯のはたらき
仙骨が腸骨に対してお辞儀をするように前下方へ傾く動きをニューテーション、その逆をカウンターニューテーションと呼びます。立ち上がる、歩く、荷物を持ち上げる。そうした場面で上半身の重さが仙骨を通って下肢へ伝わるとき、この微細な動きが起きています。
このとき制動をかけているのが、仙骨と坐骨結節をつなぐ仙結節靭帯や骨間仙腸靭帯です。ニューテーションが進むとこれらの靭帯が張り、関節面同士が強く噛み合って安定します。関節そのものの形状による安定と、筋・靭帯の張力による安定。この二つが揃って初めて、骨盤帯は荷重を通す土台として働きます。
骨盤帯は「面」で支えられている
張力をつくる側には、大殿筋と反対側の広背筋を胸腰筋膜でつなぐ斜めのライン、多裂筋、腹横筋、骨盤底筋群などが関わります。つまり骨盤帯の安定化は、一つの筋肉の強さではなく、上半身と下半身をまたぐ張力のネットワークの問題です。
どこか一か所でこの張力が抜けたり、逆に片側だけが過剰に働いたりすると、仙腸関節の面にかかる負担が偏ります。関節周囲には侵害受容を担う神経終末が豊富に分布しているため、わずかなストレスの偏りでも痛みとして感じられることがある、と考えられています。
一つの検査では決められない|仙腸関節障害の評価と産後の不安定感
仙腸関節障害の評価が難しいのは、画像だけでは判断しきれない場面が多いことです。そのため臨床では、骨盤に特定の方向からストレスをかけて痛みが再現されるかを見る整形外科的検査が用いられます。ディストラクション(骨盤を広げる)、コンプレッション(横から圧迫する)、大腿スラスト、ゲンスレン、仙骨への圧迫など、いくつかの方法が知られています。
ただし、重要なのはここからです。研究では、単一のテストで判断するのではなく、複数の検査を組み合わせて評価することが有用とされています。一つのテストだけでは偶然陽性になることも、見逃すこともあるためです。「このテストが陽性だから仙腸関節です」と短絡しないこと自体が、評価の精度を支えています。
産後に骨盤まわりが頼りなく感じるとき
妊娠期にはホルモンの影響で靭帯の伸張性が増し、出産を経て骨盤帯の張力バランスが変わります。産後に「骨盤がぐらぐらする」「片足立ちが怖い」と感じる方が多いのは、形状による安定と張力による安定のうち、後者が一時的に働きにくくなっている可能性があるためです。
この時期について、研究では骨盤帯の安定化運動やストレッチ、体の使い方の指導に加えて、産後の骨盤ベルトの併用が役立つ可能性も示されています。ベルトは外から張力を補う道具であり、自分の筋による支えを育てる取り組みと組み合わせて考えるものです。装着位置や使う期間は体格や状態で変わるため、自己流で締め続けるより、一度専門家に確認したほうが納得して使えます。
なお、安静にしていても強い痛みがある、下肢のしびれや力の入りにくさがある、発熱を伴う、排尿・排便の異常がある。こうした状態が見られる場合や痛みが続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
整体師として考えていることは、noteにも書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
骨盤だけを見ない|オステオパシーが捉える全身のつながりと対応の考え方
仙腸関節に負担が集まっているとして、ではなぜそこに偏りが生まれたのか。オステオパシーの視点では、骨盤そのものよりその上下にある構造を一緒に見ていきます。
たとえば足首の動きが乏しければ、歩行のたびに骨盤が代わりに揺れます。胸椎や肋骨の動きが硬ければ、体幹をひねる仕事を腰と骨盤が肩代わりします。横隔膜と骨盤底は呼吸のたびに連動して上下していますから、呼吸が浅くなれば腹腔内の圧の支えも変わります。
さらに膜のつながりという見方もあります。尾骨から硬膜を介して頭蓋へ、子宮や膀胱を支える組織から骨盤の内側へ、骨盤内の臓器を取り巻く結合組織の張力が変化すれば、仙骨の動きにも影響しうると考えられています。産後に骨盤帯の不安定感と内臓の位置の変化が重なりやすいのは、この文脈で理解できる部分があります。
多角的に組み合わせるという報告
対応についても、研究では一つの方法に頼るのではなく、体の使い方の指導・骨盤帯の安定化運動とストレッチ・徒手的アプローチを組み合わせた多角的な方法が報告されています。徒手療法で腰や骨盤まわりの組織の状態を整えつつ、日常動作と運動で支えを育てる。どちらか片方だけでは成り立ちにくい、ということでもあります。
茨城県龍ケ崎市のすーさん夫婦の龍ケ崎整体院では、柔道整復師の夫婦2人で約45分の施術を行っています。日々の施術のなかでは、お尻まわりの痛みを訴える方に対しても、痛む場所だけで終わらせず、足部・胸郭・呼吸・骨盤内の張力まで順に確認していくようにしています。これまで診てきた範囲では、座り方や立ち上がり方といった何気ない動作のクセが、片側の負担に結びついているように感じる場面が少なくありません。
なお、安定化運動やストレッチの具体的な手順は状態によって向き不向きがあります。セルフケアについて整体師としてどう考えているかは、noteにも書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
まとめ
お尻の上に残る痛みは、腰椎ではなく仙腸関節と骨盤帯の荷重の通り道に関わっていることがあります。ほとんど動かない関節だからこそ、ニューテーションを支える靭帯と筋の張力のバランスが崩れると負担が偏ります。評価は一つのテストで決めず複数を組み合わせること、対応は動作指導・安定化運動・ストレッチ・徒手的アプローチを組み合わせることが報告されています。産後の方は骨盤ベルトの使い方も含め、一度相談しながら進めてみてください。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- Sacroiliac Joint Dysfunction: Diagnosis and Treatment(Am Fam Physician 2022) PubMed
- Sacroiliac joint dysfunction: pathophysiology, diagnosis, and treatment(Eur Spine J 2021) PubMed
- Management of sacroiliac joint pain: current concepts(Eur J Orthop Surg Traumatol 2025) PubMed
よくある質問
Q. 仙腸関節の痛みは、普通の腰痛とどう違うんですか?
A. 仙腸関節由来の場合、腰の中央より少し下、お尻の上の出っ張りのあたりを指一本で示せることが多いとされます。寝返りや片足立ち、長時間の座位で響く感じが出やすいのも特徴として報告されています。
Q. 仙腸関節障害はどんな検査で調べるのでしょうか?
A. 押して痛むポイントの確認に加え、骨盤に負荷をかける複数の整形外科的テストを組み合わせて評価するのが一般的です。単独のテストでは判断が難しいため、複数の所見と日常動作の様子を併せて総合的に見ていきます。
Q. 産後に骨盤ベルトは使ったほうがいいですか?
A. 産後で骨盤帯の不安定感がある方では、ベルトの併用が役立つ可能性が報告されています。ただし締め方や使う期間は人それぞれで、安定化運動と並行して使う考え方が一般的です。自己判断で長期常用せず相談をおすすめします。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
さらに深く知りたい方へ
「骨盤が歪んでいますね」と言われたとき、整体師が最初に何を確かめるかは、noteに書いています。
・「骨盤が歪んでいますね」と言われて、私が最初に確かめること(無料)
・揉んでも戻ることについて、痛い場所だけでは終わらないと整体師が考える理由(有料)
有料記事は買い切りです。価格(税込)はnoteの各記事ページに表示しています。
noteの記事は、整体師が研究や施術の中で考えたことをまとめた読み物です。診断・治療に代わるものではありません。
茨城県龍ケ崎市で実際に施術を受けたい方へ
すーさん夫婦の龍ケ崎整体院
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