「最近どうもお腹の調子が安定しない」「親の体力が落ちてきた」。その背景には、腸の中に住む細菌たちのバランスが関わっている可能性があります。5カ国の高齢者を対象にした1年間の介入研究では、食事内容を変えることで腸内細菌のバランスが変化し、虚弱の進行がゆるやかだったと報告されました。サプリメントではなく、日々の食卓で何を選ぶか。本記事では、なぜ「何を食べるか」が腸内環境を左右するのか、その仕組みを整体師の視点から掘り下げていきます。
疲れやすさとお腹の不調が同時に起きるのはなぜか
「お腹が張る」「便通が安定しない」という訴えと、「夕方になるとどっと疲れる」という訴えは、一見まったく別のものに見えます。けれど、この二つを同時に抱えている方は珍しくありません。施術の現場では、40〜60代の方から「お腹の調子が悪い時期は、決まって身体も重い」という話をよく伺います。
この二つをつなぐ接点のひとつが、腸の壁そのものです。腸の内側は、粘液層と上皮細胞がぴったりと並んだ腸管バリア(腸の内容物と体内を隔てる仕切り)でできています。ここは、必要な栄養だけを通し、不要なものを通さない選別の場所です。
この仕切りの維持に関わっているのが、腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸(食物繊維を細菌が分解してできる酪酸・酢酸などの物質)です。短鎖脂肪酸は大腸の上皮細胞にとって主要なエネルギー源になることが知られており、バリアを保つ材料でもあります。材料が細れば、仕切りの働きが落ちる可能性が出てきます。
「なんとなくだるい」の背景にある低い炎症
腸管バリアの働きが落ちると、本来なら体内に入らないはずの細菌由来の成分が、わずかに血流側へ漏れ出すことがあると考えられています。量としては微量でも、それが毎日続けば、免疫系は常に小さく反応し続けることになります。これが慢性炎症(自覚症状に乏しい、低いレベルの持続的な炎症)と呼ばれる状態です。
炎症反応はエネルギーを使います。熱が出るほどではない小さな火でも、それを一日中焚き続ければ、燃料は確実に減っていきます。「検査では特に異常がないのに疲れやすい」という感覚の一部には、こうした背景が関わっていることがあります。
なお、体重が落ちてきた、血便がある、強い腹痛が続く、発熱を伴うといった場合は食事の工夫で様子を見る段階ではありません。自己判断せず医療機関にご相談ください。
腸内細菌の多様性が落ちると身体で何が起きるのか
腸内には多種多様な細菌が暮らしていて、その集団を腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼びます。ここで重要になるのが、特定の「良い菌」が何匹いるかではなく、どれだけ多様な顔ぶれが揃っているかという点です。
多様性が大切な理由は、役割分担にあります。細菌はそれぞれ分解できる糖や繊維の種類が違います。ある菌は海藻の成分を、別の菌は豆の難消化性の糖を、また別の菌は他の菌が出した中間産物を受け取って酪酸に変える。そうしたリレーが腸の中で起きています。顔ぶれが減れば、このリレーが途中で途切れます。
食習慣が顔ぶれを決める
腸内細菌の多様性は食習慣と強く結びついていると考えられています。理由は単純で、細菌にとって食物繊維は食料そのものだからです。繊維の種類が乏しい食事が続くと、繊維を分解する菌は食いぶちを失い、代わりに腸の粘液層を削って生きる菌が増えやすくなるという指摘もあります。仕切りを守る側の材料が減り、削る側が増える。この二重の変化が、じわじわと腸管バリアに影響する可能性があります。
高齢になると、噛む力や食欲の低下から、食べるものの種類が自然と絞られていきます。パンとお茶、おかゆと佃煮、といった固定化です。カロリーは足りていても、腸内細菌にとっての食料の多様性は大きく下がります。虚弱(フレイル)と食事の関係が注目されるのは、筋肉の材料となるたんぱく質の話だけでなく、こうした腸側の事情も絡んでいるからです。
これまで診てきた範囲では、ご高齢のご家族の付き添いで来られる方から「最近、親の食事がずっと同じメニューになっている」と伺うことがあります。量よりも品目の幅が狭まっているかどうか。そこは一度見直してみる価値がある視点だと感じています。
地中海食と発酵食品の研究が示した腸内環境の変化
ここで、実際に食事を変えて腸内細菌がどう動くかを調べた研究を二つ紹介します。
5カ国の高齢者に地中海食を1年続けた研究
ヨーロッパ5カ国の高齢者を対象に、野菜・果物・豆類・全粒穀物・オリーブオイル・魚を中心とした地中海型の食事を1年間続けてもらう介入研究が行われています(Gut誌, 2020年)。この研究では、食事を続けた群で腸内細菌叢の構成に変化が見られ、虚弱の進行がゆるやかだったことや、炎症に関わる指標との関連が報告されています。
注目したいのは、介入されたのが薬でもサプリでもなく、日々の献立そのものだったという点です。腸内細菌は毎日食べたものを材料に生きています。だからこそ、変化を見るには1年という単位が必要になります。
発酵食品を増やした食事と炎症指標
もうひとつは、発酵食品を増やす食事と、食物繊維を増やす食事を比較した研究です(Cell誌, 2021年)。この研究では、発酵食品を増やしたグループで腸内細菌の多様性が高まり、炎症に関わる複数の指標が低下したと報告されています。
発酵食品が腸に関わるルートは一つではないと考えられています。食品に含まれる微生物そのものが腸を通過する間に働きかける可能性、発酵の過程でつくられた有機酸やペプチドが作用する可能性、そして発酵食品に伴って摂る繊維や多様な食材の影響。これらが重なり合っていると見られています。
どちらの研究も「これを食べれば何かが治る」という話ではありません。日々の食習慣が体調管理を支える可能性が示された、という範囲で受け取るのが適切です。それでも、努力の方向が示されたこと自体に意味があると私は感じています。
食と身体のつながりについては、noteで整体師の実体験とともに詳しく書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
内臓と自律神経から腸をみる|オステオパシー的な視点
ここからは、手で身体を診る立場からの話です。茨城県龍ケ崎市のすーさん夫婦の龍ケ崎整体院では、お腹まわりの不調を訴える方に、腹部の動きや呼吸との連動を確認することがあります。
腸は、骨のように固定されているわけではありません。腸間膜という膜で吊られ、呼吸のたびに横隔膜に押されて動いています。上下左右に少しずつ、1日に何千回も。オステオパシーの考え方では、この微細な動きの制限が、長い時間をかけて周囲の組織に影響を及ぼしていくと捉えます。腹部の手術歴や強い炎症の後に、膜同士の滑りが悪くなりやすいことも知られています。
迷走神経という往復路
もうひとつ外せないのが迷走神経(脳から腹部の内臓まで伸びる自律神経)です。この神経は脳から内臓へ指令を送るだけでなく、むしろ大半の線維が内臓から脳へ情報を上げる方向だとされています。つまり腸の状態は、常に脳へ報告されているわけです。
さらに、腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸や各種の代謝物が、腸の内分泌細胞や神経終末を介してこの往復路に関わっている可能性が研究されています。「お腹の調子が悪いと気分まで沈む」という実感には、理由があると考えられます。
施術の現場では、呼吸が浅く、肋骨の下部がほとんど動かない方に、お腹の張りや便通の不安定さが重なっている場面をよく見ます。横隔膜が動かなければ腸への機械的な刺激も減ります。日々の施術のなかで私たちが見ているのは、こうした構造の動きと、食事という内側からの材料供給の、両方の側面です。手技は手技でできることをする。食は食でできることをする。その二つを分けずに考えるのが、私たちが大切にしている視点です。
食と身体のつながりについては、noteで整体師の実体験とともに詳しく書いています。
→ https://note.com/honest_rose9929
まとめ
お腹の不調と疲れやすさは、腸管バリアと慢性炎症、そして腸内細菌の多様性という線でつながっている可能性があります。地中海食の長期介入や発酵食品を増やした食事の研究は、食習慣が腸内環境に働きかけうることを示しました。特別な一品を足すより、食べるものの顔ぶれを広げること。龍ケ崎の施術の現場でも、そこを一緒に見直すところから始めています。気になる症状が続く場合は、医療機関にご相談ください。
参考文献
本記事の作成にあたり参照した研究論文です(内容は要約・意訳したものであり、原文の直接引用ではありません)。
- The interplay between diet and the gut microbiome: implications for health and disease(Nat Rev Microbiol 2024) PubMed
- Mediterranean diet intervention alters the gut microbiome in older people reducing frailty and improving health status: the NU-AGE 1-year dietary intervention across five European countries(Gut 2020) PubMed
- Gut-microbiota-targeted diets modulate human immune status(Cell 2021) PubMed
よくある質問
Q. 腸内環境は食事で何日くらいから変わりますか?
A. 腸内細菌の構成は数日単位で揺れ動くことが報告されていますが、研究で虚弱の進行や炎症指標に差が出たのは数週間から1年という継続期間でした。短期の変化より、続けられる食習慣が重要と考えられます。
Q. 発酵食品とサプリメントはどちらがよいのでしょうか?
A. 研究で腸内細菌の多様性が高まり炎症に関わる指標が下がったのは、発酵食品を日々の食事で増やした群でした。サプリの是非ではなく、食事全体の組み立てが腸内細菌の働きに影響すると考えられています。
Q. 高齢の親の体力低下にも腸内環境は関係しますか?
A. 5カ国の高齢者を対象とした1年間の介入研究では、地中海食を続けた群で腸内細菌のバランスが変化し、虚弱の進行がゆるやかだったと報告されています。食習慣が体調管理を支える可能性が示唆されています。

鈴木大樹(すずき だいき)
柔道整復師 / オステオパシー専門校在学中 / 産後リハビリ国際セミナー修了
茨城県龍ケ崎市で妻・佳代とともに整体院を営む整体師。食・自然療法・筋膜のつながりを臨床と学びの中で深め、「なぜ身体はそうなるのか」を発信し続けています。
さらに深く知りたい方へ
腸と身体の痛みがつながっているのかどうか、わかっていることとわかっていないことをnoteに書いています。
・腸と身体の痛みは、つながっているのか(無料)
・1兆724億円の市場で、飲んだ菌はどこへ行くのか(有料)
・2万5千人を5年追って、オメガ3のサプリと薬は何を変えたのか(有料)
有料記事は買い切りです。価格(税込)はnoteの各記事ページに表示しています。
noteの記事は、整体師が研究や施術の中で考えたことをまとめた読み物です。診断・治療に代わるものではありません。
茨城県龍ケ崎市で実際に施術を受けたい方へ
すーさん夫婦の龍ケ崎整体院
所在地:茨城県龍ケ崎市愛戸町58-2(龍ケ崎郵便局から徒歩2分)
電話:080-3406-6568 営業時間:平日9:00〜21:00 / 土曜8:30〜15:30


